──特に尊重するフェンディ家の伝統は何でしょうか?
カールがデザインしたFFロゴが「Fun Fur」を意味することをご存じ? ファッションはFun(喜び)と結びついています。軽快さをもって喜びにアプローチすること、それがFunを生み出すのです。それに、人はファッションを通じて深刻な問題も快活に語ることができるようになります。遊び心をもって、あまり真剣に考えつめずにもっと気軽に生きよう―私はそんな考え方を受け継いでいます。
デジタルプラットフォーム「F IS FOR...」によるアート企画「THE RING OF THE FUTURE」
──シルヴィアさんが新たに取り組んだチャレンジとは何でしょうか?
フェンディでは創業当初から女性が先頭に立ってきました。私のスタジオも男女の比率は1対9。これは重要なことよ。ファッション業界はずっと男性に支配されてきたから。コレクションでは年を重ねたモデルや有色人種のモデルを起用するなど、多様性を重視してきました。みんなを既成概念から解放したかったの。
──フェンディはローマの景観復興に尽力しています。なぜでしょうか?
フェンディはローマ。ローマはフェンディ。私たちは地理的にも文化的にも、ローマにルーツをもっていることをとても誇りに思っています。ブランドの核ともいうべき唯一無二の価値や、尽きることのないインスピレーション源、文化的な刺激が絶えずそこにあるのです。私たちを育ててくれた歴史的・芸術的遺産の継続的保存に関与することで、愛する永遠の都に恩返しをすることはごく自然な流れでした。
ローマのイタリア文明宮に置かれるフェンディ本社
──フェンディが「クラフツマンシップ」に加えて「唯一無二な創造力」に注力する理由はなんでしょうか?
私は状況が困難なほど、チャレンジする意欲が湧いてきます。例えば職人と仕事をしていて、彼らが「ノー。できません」と言うとき。そんなときこそ、私は「このノーをイエスにしなくては!」と言うのです。「Nothing is impossible(不可能はない)」がモットーなのですから。
探求心や情熱を、デザインやインテリアなどほかの分野のアーティストと共有することはとても刺激的です。誰も見たことがないような新しいものを創造し、人々に夢や驚きをもたらしたいと思っています。
左/都会的でラグジュアリーなビジネスバッグとしても使える、フェンディらしい遊び心がちりばめられた「PEEKABOO」バッグ。右/クロスボディやクラッチなど、さまざまな持ち方ができる「BAGUETTE」バッグ。機能性を追求したデザインが特徴で、リサイクルナイロンを使用したサステナブルな新作も登場した。
シルヴィア・フェンディ◎フェンディ創業家3代目。フェンディを統括するディレクターを務める。1987年にFENDISSIMEラインのクリエイティブディレクターに就任。94年にレザーグッズの責任者に。97年には大ヒット商品「BAGUETTE」バッグを発表し、数々のアワードを受賞する。