UAE首相でドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥームによれば、同国に才能と投資を呼び込むことが狙いだという。
UAEはこのところ、原油収入の落ち込みとコロナ禍による影響で、経済的な苦境に立たされている。米格付け企業スタンダード・アンド・プアーズの見方では、同国経済がパンデミック前の水準に戻るのは2023年になりそうだ。
UAE政府の発表では、申請資格があるのは投資家、医師、発明家、科学者、知識人、芸術家とされている。その配偶者と子どもにもパスポートが発行され、全員が現在の国籍を保持できる。
市民権が付与される人数は不明だが、そこに至るまでには数多くの条件をクリアしなければならない。
たとえば、投資家はUAEで不動産を所有する必要がある。医師などの医学専門家は、UAEで必要とされている科学分野が専門でなければならない。科学者は、研究に積極的に取り組んでいるほか、最低10年間の研究経験をはじめとする、さまざまな要件がある。発明家は、自身が開発した技術の特許を1件かそれ以上取得していなければならない。知識人や芸術家の場合は、「文化や芸術分野におけるパイオニア」であることが求められ、それを証明できる国際的な受賞経験が必要だ。
不明点は残る
とはいえ、個人がただ申請できるというわけではなく、推薦が必要だ。推薦権を持つのは、UAEを構成する7つの首長国の首長府か皇太子、執行評議会あるいは連邦内閣のみである。実際の手続きについてはまだわかっていない。
これまでは、UAE市民権を取得できるのは通常、UAE国籍を持つ男性の妻と子どもだけだった。UAE国籍の女性が外国人と結婚しても、その子どもに市民権が自動付与されるわけではなく、取得には何年もかかる。
そうした厳格な規則は、アラブ地域では一般的だ。以前、一部のアラブ諸国で規則が緩和されたときには抗議の声が上がった。バーレーンで2011年に民主化要求デモが起きた際には、ヨルダンやパキスタン、シリアなどに住むスンニ派に対して市民権を迅速に付与する特例承認についても抗議が行われた。バーレーンでは王族がスンニ派であるのに対し、国民の大多数はシーア派であるため、そうした政策はシーア派の立場を弱め、社会の構造を変化させようとする試みだと国民は解釈したのだ。
今までは、UAEに住む外国人にとって最善の選択肢は、10年間の居住が許可される「ゴールデン・ビザ」を取得することだった。近年は、ほかの湾岸諸国も同様の措置を導入し、外国人居住者の保護を強化して、スキルや資本を持つ外国人を呼び込んで長く滞在してもらえるよう努めている。たとえばサウジアラビアには「プレミアム・レジデンシー」という永住者ビザがあり、1回限りの料金80万サウジアラビア・リヤル(約2236万円)を支払えば取得できる。
UAE政府が発表した新制度に関する声明には、「UAE市民権には、営利事業法人の設立や不動産の所有ができる権利をはじめ、幅広い恩恵が含まれている。連邦当局からほかの特典も与えられる」と書かれている。しかし、同国の無料の教育や医療制度、住宅ローンといった手厚い社会福祉制度を利用できるのかどうかは明記されていない。