竹崎:とは言え、100万人あたりの感染者数が日本の20倍というのは高い数値だと思うのですが、国民は現状をどのように受け止めているのでしょうか。スウェーデン国王が、自国の対策について「失敗したと思う」と発言し、注目されましたよね。
加藤:たしかに抑え込みに成功しているとは思えませんが、それでもなお、国民の政府に対する信頼は厚いと感じています。それは、日本の厚生労働省にあたる公衆衛生庁が毎日のように記者会見を開き、現状とコロナ対策の方針、そしてその方針を打ち出した根拠を丁寧に説明しているからでしょう。
先ほど、公共交通機関でのマスクの着用が義務化されたと言いましたが、これは結構大きな方向転換でした。ただ、その背景を私たち国民にわかりやすく説明してくれたので、私自身も政府の方針には納得しています。
竹崎:スウェーデンと比べると、日本のメディアや世論は政府批判をする傾向にありますよね。日本が同じ状況になっていれば、荒れていたかもしれません。それは国民性の違いだけでなく、情報発信の内容や頻度も関係しているように感じました。
加藤氏、大学にてフィーカというコーヒーなどを飲む休憩時間
日本の医療アクセスは「羨ましい」
松田崇裕(以下、松田):取材のようになってしまいますが、スウェーデンの医療体制について質問させてください。先ほど竹崎さんが言ったとおり、100万人あたりのコロナ感染者数で見ると日本は陽性率が低いうえに、欧米に比べると病院数も病床数も多い。しかし、日本ではたびたび病床不足が議論されています。
一方、スウェーデンでは医療逼迫が起こっていないと聞きました。これにはどのような背景があるのでしょうか。病院間の連携や病床の管理、自宅療養の在り方に解決の糸口があるような気がしています。
加藤:医療は逼迫していないと言われていますが、スウェーデンではそもそも簡単に入院できないという前提があります。これはコロナが流行ってからに限ったことではなく、以前からそうなんです。というのも、スウェーデンは人口が少ない分病院も少なくて、例えば私が住んでいる市には病院がひとつしかありません。
そうなると、感染者を全員受け入れることは不可能なので、事前に線引きする必要が出てきます。日本では考えにくいのですが、昨年春の第一波の時は、余命が短い方や基礎疾患が複数ある方などは、その時点で集中治療室での治療を受けられないことがありました。
竹崎:その線引きは、誰が実施するのでしょうか。
加藤:一般的に、スウェーデンでは病院を受診する前に1177という医療相談窓口に電話をします。そこで、看護師が電話で相談者の症状を確認し、病院を受診する必要があるかを振り分けるのです。
医療機関を受診するほど重症でないと判断された場合には、薬局で購入できる適切な薬を勧めてもらったり、自宅療養のアドバイスを受けたりしますが、病院は受診できません。病院に行く必要があると判断されてはじめて入院などができるのです。
また、コロナをきっかけにオンライン診療も広まりました。もともと電話相談が根付いているので、みんなカジュアルに利用しています。これは日本との大きな違いですね。
竹崎:オンラインや電話診療以外にも、治療できるキャパシティを拡大する取り組みは行われましたか。
加藤:昨年の春にもっとも感染者数が増えたときは、ストックホルムやヨーテボリのような大都市に重症患者を治療するための新たな場所を設けるなど、医療へのアクセスやキャパシティの改善が図られました。ただ、小さい町の環境は地域差があるいうのが現状です。
その点、日本は医療へのアクセスがいいですよね。感染者が療養する場所としてホテルが用意されているとニュースで見ましたが、スウェーデンではそんなこと考えもしないので羨ましいです。死亡者数の少なさから見ても、日本の方がコロナ対策は成功しているように感じています。
加藤氏、学術集会のポスター発表
「コロナ感染者数」は適切な指標なのか
竹崎:先ほど加藤さんより、スウェーデンでは公衆衛生庁が発信する情報が国民の信頼を厚くする要因になっていると伺いました。では、日本の政府の情報発信についてはどのように受け止めていますか。私は発信される情報が正しいのか疑問に思うことがたびたびあります。
例えば、民間の検査機関が行うPCR検査は、政府や自治体が発表する検査総数に含まれない場合があり、陽性判定者数(分子)と検査総数(分母)にズレが生じているのではと感じます。また、毎日感染者数が発表されていますが、それがいつの結果なのかが不明確で、なんとなく2〜3日前なのかなという憶測で捉えている状況です。