海外から見えてきた、日本がコロナから学ぶべきこと

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松田:日本でも「8割おじさん」の愛称で知られる京都大学大学院医学研究科の西浦博先生をはじめ、専門家のグループの中では各論としてさまざまな予測が出されています。ただ、政府の情報発信には個別の専門家の予測が全て網羅されているわけではなく、メディアとしてどう伝えていくかが課題です。

竹崎:専門家の意見といっても、多様な意見や見解が出てくるのは必然です。本来であれば、政府がそれらを聞いたうえで、最終的な政治の決断として統一したメッセージを出してくれると、国民としても理解しやすいですよね。

日本では、担当者が質問に回答できなかったり納得のいく説明ができなかったりする場面をよく見るのですが、一方でスウェーデンの記者会見では、国民が納得する説明がなされているとのことでした。そのポイントはどこにあるのでしょうか。

加藤:記者会見は、昨年春の第一波の時期には毎日、今でも週に2回は開かれています。その場にはメディアが集まり、自由に質問ができるようになっているんです。新たな政策に取り組む際には、必ずその根拠について厳しい質問が飛び交います。

竹崎:それらの質問に答える公衆衛生庁のトップというのは、日本でいうところの厚生労働大臣みたいな位置づけでしょうか?

加藤:国家疫学官なので、厚生労働省の技官のトップというイメージの方が近いと思います。公衆衛生のプロというバックグラウンドがあるので、自身の考えをもって決断しているため、記者からの質問に答えたり国民が納得できる回答ができたりするのだと思います。ロックダウンの可否について質問された時にも、感染防止効果や子供をもつ医療従事者への影響、子供が感染源になる可能性の低さなどを客観的に示しながら説明していました。

松田:政府の分科会に参加されている方からは、日本の政府はリスクコミュニケーションが上手でないという指摘が出ています。政治決断にあたり、専門家の意見をどういう理由・根拠で採用したのか、あるいはしなかったのか、という説明は不可欠だと感じます。

竹崎:日本は、マスク着用などの感染対策を個々人レベルでもみんな当たり前にやっていて、現場の対応という意味では、世界有数のレベルだと思います。感染拡大に伴い日本でもさまざまな対策が講じられていますが、その意思決定の背景や根拠がわかると、より納得感をもって一人一人が取り組めると感じました。

議論ができると、メディアの質は変わる


竹崎:次に、日本と海外のメディアのついて比較したいと思います。加藤さんは海外在住ですが、海外から見て感じることはありますか。

加藤:日本に住む両親と話すと、「今、感染者数が増えている」という話をよく聞きます。スウェーデンと比べると人口に占める感染者数の割合は非常に低いので、私からすると「よく抑えられているな」という印象を受けるのですが、メディアがやや不安を煽っているような気がするんです。

竹崎:松田さんはメディアの第一線で活躍されていますが、その背景をどのようにご覧になりますか。先ほど、日本は感染者数にフォーカスした発表がなされているという点で海外との違いが指摘されました。この点も関係あるように感じます。

松田:私たちは東京都の午後3時の発表を目がけて速報を出しているのですが、その時点で発表されるのは感染者数だけなので、どうしても情報が網羅できないというのはあります。一方で、意図的に恐怖を煽っているわけではないことをお伝えしておくのですが、感染者数というのはある程度トレンドの目安になっているのかなと。

また、現在は重症者数も必ず載せるようにしていますし、放送に連動してスマホにWeb用のテキストニュースを流すようにもしています。放送の場合には、どうしても60秒に収めなければいけないとか、速報のテロップに字数制限があるとか、発信できる情報の量に制約があるという特徴はあると思います。

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2010年ハイチ大地震でロシア輸送機が救援に来た時の写真

加藤:危機感をもつことは、行動変容にとても大切なことだと思うんです。ただ、一般視聴者の視点からすると、専門家もたくさん情報発信されているので、その中でどの情報が正しいのかを判断するのはますます難しくなってきていると感じます。 そうなると、メディアリテラシーの重要性はますます高まりますよね。
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文=伊藤みさき 構成=竹崎孝二

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