海外から見えてきた、日本がコロナから学ぶべきこと

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松田:私たちも報道するために自治体から発表される情報は毎日確認していますが、現場で見ていても、発信される情報は複雑だなと感じます。1日の感染者数の発表主体が、自治体によっては「県」と「市」で別々だったりするからです。例えば神奈川県では、6つの「市」が個別に発表し、それ以外の数を「県」が発表します。そのため、最終的な感染者数を迅速に報道するには、自分たちでそれらを足し算しなければいけません。

竹崎:それは複雑ですね。スウェーデンの情報管理はどのようになされていますか。

加藤:スウェーデンでは、医療にかかる際には日本でいうマイナンバーが必須で、そのナンバーとカルテの検査情報が全てリンクしています。そのため、PCR検査の結果も含めたコロナの医療情報管理が日本よりしやすいと思います。

また、そのデータはすぐにウェブに反映されるので、誰でもアクセスできるようになっており、感染者数や重症者数、死亡者数、属性などの基礎データを都市別あるいは各国と比較しながら確認することもできるんです。

松田:便利ですね。日本でも、情報を迅速に共有・把握するため、厚生労働省が「ハーシス」という情報把握・管理システムを導入しました。当初は、保健所がこれまで通りの記録システムに加えて、「ハーシス」にも同様の入力をする負担があり、現場での導入が進みませんでした。

去年秋頃から「ハーシス」は、感染者数の届出数に絞られ、現場の負担は減ったようです。情報共有の流れや方法の統一が進むと、もう少し分かりやすくなるのかなと。

竹崎:情報管理や発表の方法には、国によって大きな差がありますね。加えて、モニタリング指標や基準となる数値も異なるように思います。例えば、日本では毎日「今日の感染者数は○○人です」と発表され、感染者数がフォーカスされています。私からすると、感染者数は検査数や休日などに影響されるので、ミスリーディングを招く危険性があるように感じるのですが、スウェーデンではその点いかがでしょうか。

加藤:スウェーデンでは、感染者数だけでなく、重症者数や死亡者数、最近は超過死亡にも焦点があてられています。竹崎さんがおっしゃったとおり、感染者数は、PCR件数や病院が開いているか閉まっているか、平日と休日の違いなどによって変動するので、そこだけで議論することは難しいのかなと。

実際に、スウェーデンではPCR件数が増加した際、一気に感染者数が増えたことがあります。しかし、そのときも公衆衛生庁が「感染者数が増加しているが、これは検査数の増加に伴うものだ」と説明してくれたので、国民は過度な不安を抱くことはありませんでした。

竹崎:なぜ、スウェーデンでは感染者数よりも重症者数に重点をおいてコミュニケーションがなされているのでしょうか。その背景が気になります。

加藤:推測ですが、今はPCR検査が受けやすくなったこともあり、新規感染者数が多くなっています。1日3000人前後の時から多いときで7000人弱の時もありました。その中には軽症の人も含まれています。

コロナ対策では医療崩壊を防ぐことが重要視されるのはスウェーデンも同じで、医療崩壊を招くような対象、つまり軽症者ではなく、重症者がどれくらいいるかが重要なポイントになってくるのだと思います。そのためではないでしょうか。

加えて、ヨーロッパは近隣諸国と比較することが多いという背景も考えられます。例えばドイツのようにPCR検査の普及率が高い国では検査数も多くなるので、感染者数も多くなります。PCR検査の普及率が低い国とドイツでは、感染者数を比較しにくいんです。そうすると、重症者数や死者数のように、前提の差が出にくい指標にフォーカスする方が合理的だという判断があったのかもしれません。

竹崎:個々人が状況を正しく把握し適切な判断をするためには、報道や発表内容が正しいのか、発表された数値やデータが客観的か、という視点で情報を受け取る必要があると感じました。

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加藤尚子氏(左)、松田崇裕氏(右)

なぜ、スウェーデン国民は政府への信頼が厚いのか


竹崎:スウェーデンでは感染者数の増減やその背景について、公衆衛生庁が丁寧に説明してくれるとのことですが、それは将来予測についても同様ですか。

加藤:もちろん半年や1年先の将来予測は不可能ですが、数日、数週間先の将来予測は発表されます。例えば、「クリスマスのホリデーシーズンは検査数の減少が見込まれるので、感染者数は一時減るが、休暇が終われば感染者数は増加に転じるだろう」というような感じです。そのため、感染者数が急に増加、あるいは、減少しても国民はその背景を知っているため、極端に驚いたり一喜一憂したりすることはありません。

竹崎:面白いですね。日本では、神奈川県が病床のキャパシティと療養者数の予測を公開していますが、そのような一部の自治体を除いては、今後の予測についての議論や発信が十分でないように感じます。そのため、どうしても対応が後手後手にみえるんです。
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文=伊藤みさき 構成=竹崎孝二

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