コロナ禍に打ち勝つ新潟・燕三条のナゼ

イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

全国を歩き回るマクアケ社長の中山亮太郎が「次に来るもの」を見いだす新連載。初回は、コロナ禍にもかかわらず躍進を遂げている燕三条地域の秘密に迫る。


新型コロナウイルスが日本中に打撃を与えているなかで、大きく飛躍した地域がある。新潟の燕三条だ。なんと多くの会社が、ここ数年のなかで最高の売り上げをたたき出しているという。

私は第一回目の緊急事態宣言が出される前、新型コロナによって各地各産業に実際どういった影響が出るのか、「Makuake」を活用してくれた各地の企業と情報交換のオンラインミーティングを実施させていただいた。そのなかで、燕三条地域で「村の鍛冶屋」というネットショップを運営する山谷産業の山谷武範社長は、「地域内の各工場への注文が、生産ラインギリギリになるほどに一気に増加しています。村の鍛冶屋への注文も前年を上回る勢いです」と話してくれた。そして第一回目の緊急事態宣言から半年が過ぎ、あらためてお話を聞いたところ、その内容には将来再び起こるかもしれないウイルスとの戦いに備えるための大きなヒントがあった。

燕三条は従来質の高いキッチン関連用品やアウトドア用品をつくっている地域だ。在宅化の波や、密を避けられる外出レジャーのニーズが高まったことは追い風となった。ただ、備えなくこの追い風をつかむことは不可能だ。この地域にそれができたのは、長年かけて守った文化と、販路改革の両方が備わっていたからだという。

守った文化とは、モノづくりの産地内の絆だ。新型コロナで消費者のニーズが変わるなか、できるだけ地場ですべてのモノづくりを完結させることを諦めなかった燕三条は、どこよりもスピーディに新しいニーズに合った商品開発ができた。例えば、山谷産業では家庭でもアウトドア体験を楽しめるように、自社ブランド「TSBBQ」で家庭用IHキッチン対応のホットサンドメーカーを素早く投入。従来は主にプロの料理人や飲食店を相手に商品をつくっていた本間製作所も、在宅需要の増加に合わせて新たに一般消費者向けボウルセットを開発。「仁作」ブランドで展開している富田刃物は、独自のステンレス加工技術を生かしたアウトドア向けのナイフを販売した。地域をまたがず、海をわたらずに、モノづくりを完結できる土壌があったことが、分断が強まるコロナ禍で大きな強みとなったのだ。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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