また、これだけ色が多いと、色を作るだけでなく、印刷機を洗う回数もとんでもなく増えるのです。刷って、洗って、練ったインクを入れて、また刷る。これを数十回、毎日永遠と繰り返しました。
すべての色を手作業で調合。ミスが生じないよう缶にはNoを記載
色のレシピをもとに忠実に再現
私も全て現場に立ち合い、401社分の特色を見ましたが、得も言われぬ緊張の日々でした。印刷自体は1カ月かけて行ったのですが、通常の印刷物は、片面で1日、両面で2日あれば終わってしまう。ですが、これだけの色の特色の場合はそれだけの時間がかかりますし、1つでもミスすればおしまいです。やり直す時間など絶対にありません。
実際に使用した油性菊全オフセット印刷機
もちろんミスが起こらないよう細心の注意は払いますが、いかんせん人間がやっている作業ですから、予期せぬミスはどうしても起きてしまうこともあります。
そんな状況下で印刷を終え、次に製本の作業です。本来製本も機械任せであれば難なく終わる作業ですが、当然ページの順番を間違えてはいけないですし、ちょっとしたミスでこの1、2カ月の作業が台無しになってしまう。誰一人妥協することはなかったですし、みんなが「ここはちゃんとチェックしよう」「ここは気をつけよう」と声を掛け合いながら走った2カ月間でした。
「チームで挑む」姿勢が、本を完成へと導いた
そうしたピリピリに張り詰めた2カ月間でしたから、完成品を手にした時の達成感はとんでもないものでした。「やっと終わった」という感情以上に、「やれてよかった、やり切ってよかった」という思いの方が大きかったのを覚えています。
手を動かしていた当時は目の前の「色を作る」「製本をする」という作業一つひとつに集中していましたが、振り返るとこの途方もない作業は、このチーム、この仲間がいたからできたのだと思います。
“大洋印刷は職人が多い”と冒頭にも書きましたが、当社は仕事にこだわりのある人間がたくさんいます。今回のプロジェクトに携わったメンバーの中には実際、「全ページほぼ特色というのは、何十年もこの仕事をして初めてだったよ。でも、やりがいしかなかったね」と言ってくれる人もいました。
どんな仕事も「面白そうだ」と思えるのは、社是に「チャレンジ」という言葉があるように、代々大洋印刷に流れてきたDNAなのだと思います。上司部下の関係はあれど、意見を言い合いながら良いものをみんなで作り続ける。私たちは一印刷会社ではありますが、デザイナーさんやお客さまが考えられて想いが詰まったものを最後に仕上げるという大切な役割を担っています。だからこそ、「全員でやり遂げる」という強い意志が、良いものを作る重要なエッセンスであると、みな理解しているのだと、私は思います。
また、今回のプロジェクトに関して言えば、武藤さんをはじめ、デザイナーの株式会社サン・アドの白井陽平さんといった、プロジェクトの根幹となっていたみなさんが我々も巻き込んでくださり、企画段階から入らせてもらったというのも大きいです。
なんでもそうですが、軽く「やっておいてください」と投げられるのではなく、事前の打ち合わせから入っていたり、メールのCCに入れてもらっていたりするだけで、プロジェクトにかける発起人たちの熱量がこちらにも伝わってくるものです。だからこそ、こちらも熱い気持ちでいられる。納品が終わった後、「素晴らしい!」と武藤さんから電話をいただいた時は感動しました。「チームで挑む」意義を教えてもらったと思います。
“文字の強さ”を感じられる一冊に
改めて振り返ると、武藤さんの言葉通り「クレイジー」な2カ月だったと思います。ですが、そんな日々を費やして完成したこの本には、単なる4つの色や、デジタル上の文字では出すことのできない“文字の強さ”を感じていただけると思っています。
この本を手に取った方が、そうした文字の強さや色鮮やかな言葉たちの素晴らしさに気づいていただければ何よりですし、401の企業のみなさんが書いたPRへの思いもリアルに伝わるのではと考えています。
また再びこうしたプロジェクトに携わらせていただけるチャンスがあるか分かりませんが、お客さまとのものづくりに誠心誠意向き合っていける、私自身もそんな営業マンでありたいと思っています。
今回のPR TIMES社のプロジェクトに携わった大洋印刷の社員
取材=青山ゆずこ、執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=川島彩水