ビジネス

2021.03.02 15:00

401社の言葉を特色で刷り上げる── 創業以来、最も「クレイジー」な仕事に挑んだ大洋印刷のDNA


「やれる?」ではなく「やってみたい?」と尋ねられて


正直、電話をいただいた際にはあっけに取られました。401社分の特色。一社ずつ色を作って刷る……もはや、どうやって印刷すればいいのか、どのような工程を立てれば良いのか、想像もつきませんでした。

武藤さんは「どう?」とおっしゃいましたが、物理的にどうかと聞かれれば、やったこともありませんでしたから、とりあえず「できる、とは思います」とお答えしました。すると武藤さんから、

「どう? やってみたい?」

そう聞かれたんです。「ズルくて良い聞き方だなぁ」と思いましたね。できるかどうかは未知の世界。ただ、やってみたいかどうかと問われれば、「嫌いじゃないです、そういうの」と、気がついたら返答していました。なんたって、およそ400種の特色印刷です。大洋印刷に入社して16年、こんな仕事はやったことがありませんでしたし、これから先もきっと、絶対にやってきません。武藤さんも「クレイジーなプロジェクトだよね」とおっしゃっていましたが、本当に私もそう思いました。



この「クレイジー」というのが、ある種のキーワードでもあったと思います。「やる」と決めてから早速開いた社内会議で、現場の責任者を集めて「できますかね?」と相談したら、みんなすぐ前のめりになった。「おもしろそうだね」「どうやったらできるかな」、意見を交わしながら、一日何色印刷すれば納期に間に合うのかと逆算して考えてみたり、スケジュールを引いてみたり。

社員全員が、“できない理由”を探すのではなく“できる工夫”を探していました。大洋印刷はとにかく職人が多いので、くすぐられるものがあったのだと思います。社内会議後、現場のオペレーターの人たちも「何かおもしろそうな仕事が入ってくるらしいね」という言い方をしていたので、やはりここはすごい会社だと思いました。私たちも良い意味で「クレイジー」だったんだと、その時実感したのです。

刷って、洗って、また刷って…「クレイジー」な2カ月が始まった


ただ、もちろんやる気だけでは本は完成しません。コロナ禍である状況を加味しても、2カ月というスケジュール感で、かつ高水準の要求に応えた質の高い一冊を完成させるには、相当な根気が必要でした。

通常、カラーの印刷物はCMYKという4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分によって色を表す色の表現法の一種)で成り立っていますが、それでは表現できない色に特色を使います。ですが、当社で扱う印刷物でも特色というのは多くても4〜5色。今回はおよそ400の色を作るわけですから、まずそれぞれのインクを調合するだけで数週間から1カ月近くかかってしまいます。最初はある程度、色のリストをいただいていましたが、リストで一度カラーチップを探し、他のものもインクのレシピのようなものを元に機械でベースを練り上げて、それらを実際に紙に転写する。それから色を調整して、企業のコーポレートカラーに合わせていき、この作業を繰り返します。全て手作業です。


カラーチップリストと、インク調合のレシピ


刷り出し(大洋印刷では、シート状に本番印刷し、加工所で製本される前の状態のものを指す)
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PR TIMES STORYより

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