メンターという存在
このセッションでは、Forbes JAPANとして事前にひとつの可能性を提示していた。それは「メンター」という存在が、AYA世代の患者に適しているのではないかというものだ。
ビジネスでも頻出するこのワード。指針としての役割をAYAに応用しようという意味だ。これは北野の専門分野でもある。
「人間関係のアップデートの中で、人生をちょっと先に言っている人、そういう人が近くにいるかいないかは重要です。凄すぎる人の言葉に現実味がないように、メンターの存在は、自分に近い人がいい。近所のお兄ちゃんお姉ちゃんでも(笑)。完全な答えを出すという意味ではなく、私の時はこうしたよ、って言える人を持つことが大事なのかなと思います」
辻がこの考えを拡張する。
「もうひとつあるかなと思うのは自己開示ですね。自分の弱さを伝えることってすごく勇気がいる。自分が何に悩んでいるのか、自分の弱さや悩んでいて助けてほしいというところを意外と人って自己開示してないなって思う。もしかしたら普段から広く会う人にこんなこと悩んでいるといった種まきをちょっとずつしていると、助けてくれる、つなげてくれる世の中かなと思ったりもする。知恵者の自己開示。ちょっとした種まきがすごく大事なのかなと感じますね」
がん経験者の友寄は、当事者の目線で「メンター側になりたい人もたくさんいると思うんですよ」と話す。
「病気の人をわかってあげたいと思って今日も参加してくれている人もたくさんいると思う。でもみんながみんな病気のつらい話を聞く側にならなくても大丈夫。病気、苦しみを語ることで救われる人もいれば、そこから離れることで救われる人もいる。直接的に解決にならなくても笑い合える時間に救われたりもする人も多い。皆さんそれぞれのメンターになれるよということを言いたいです」
AYA世代のがんの課題の初手は認知だ。そして、患者とそうでない人との人間関係の中で理解が進んでいく。メンターを応用するという新しい視点も出た。このセッションで出たさまざまな意見は、AYA世代のがん患者に勇気を与えるものになっただろう。
上沼祐樹◎編集者、メディアプロデューサー。KADOKAWAでの雑誌編集をはじめ、ミクシィでニュース編集、朝日新聞本社メディアラボで新規事業などに関わる。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科を修了(MBA)し、大学で編集学について教えることも。フットサル関西施設選手権でベスト5(2000年)、サッカー大阪府総合大会で茨木市選抜として優勝(2016年)。