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「がんだけでなく、風邪などちょっとした病気をすることは誰でもあるでしょう。以前、君は病気だから、舞台の主演が倒れられたら困るから無理だといわれたことがあります。がんだからといっていつも辛いわけではない。大丈夫です! と言いたいけれど…」

良い仕事ができるかどうかではなく、「がん」が先行してしまう。多くのAYA世代はがんと戦いながら生きているが、できる/できないや成果ではなく、がんありきの考え方になることはAYA世代のがんのへ無知が引き起こす現実のひとつだ。友寄は、「多くのがん経験者は、物事をやり遂げられるという思いと同時に、どうしても体調が大丈夫じゃないときもある。それを知ってほしいという微妙な状況に置かれているんです」と言う。

ここでも辻は、コミュニケーションで両者の溝を埋める可能性を示唆する。

「現実には、知らないから話題を避けたり、気遣いと思って負担を避けたりすることも必ずあると思うんです。当事者にも、スピークアウトできる人とそうでない人もいます。生理の話でもそうですが、わかってくれる同志を見つけるためにも、レインボーフラッグのように証のようなものがあっていい。がんではない人が、『何ができるか教えて』と示せるコミュケーションの入り口が大事なんだと思います」

友寄は過去、治療の時に「何をしたら助かる?」と、具体的に聞かれたことが答えやすかったという。北野も、「たとえばSlackで“子育てマーク”がついているとコミュニケーションがしやすいだろう」と、このわかりやすい施策に可能性を上書きする。

医療現場でも、「AYA世代よりも圧倒的に多い上の世代に対して、AYA世代がリーダーシップをとって何かできるかもしれない」と、清水も期待を寄せていた。

AYAへの理解


AYA世代のがんへの理解には、当事者と、その周りにいる人たちの関係を太くしていくことが重要だ。本当に理解するなら、我々はもっと内面的なところも知る必要があるのではないか。

「AYA世代のがん患者が置かれている〈生きづらさ〉と〈希望〉って、共存すると思う」。人間関係と組織を関連づけてきた北野が切り出す。

「多くの人が、生きづらさや悩みの中でどうやって希望を見いだすか頑張っています。どんな人でも人生はそもそも大変なもので、病気にもかかる。生きづらさを前提としてコミュニケーションするのはすごく大事だと思うんです。僕も、僕なりに日々悩みを抱えていて、それを聞いた人たちの中には、『そうなんだ北野さんも生きづらいんだな』って感じる。これが本当の意味で相手に勇気と希望を与えるってことだと思っています」

これは共感と呼べるものなのかもしれない。北野は、人間関係は、「アップデート」していくものだと言う。

「学生の頃と社会人3年目の人間関係は違うし、子どもができればまた変わるので、人間関係はアップデートしていくという考えを持つことがすごく重要で、お互いに『自分の大切にする価値観』を示すことが必要になってきます。最初は当然ぶつかるかもしれないが、話し合うことによって一緒の部分を探していく。怖いけれど、それしかない。人間関係はなくなるとか、増える、というものではなく、アップデートするもので、それには、当事者が少し勇気を出すことが必要です。人の価値は、知らない人じゃなくて自分の近い自分のことをよく知っている人間からの評価で決まるのです」

たとえば、あるがん経験者がいて、その人の人生の層で自分に近しい人がおそらく深い理解者になり得るだろう。忖度なく本音でつながるというところが鍵になるのだ。清水は、医療の現場での限界を感じつつ、期待を寄せる。

「現場で、多くの患者さんは、同じ病気の経験をしている人の情報を求めています。患者さんどうしをうまくつなぐことができたらいいなと思いつつも病院の中ではやはり個人情報の問題もあり直接紹介することはできない。病院を超えたところまでつなげられるような仕掛けを作っていかなくてはいけないと感じます」

文=上沼祐樹 編集=坂元耕二

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