若く未来あるAYA世代のがん患者を救うのは、耳慣れた励ましではない

AYA世代の認知と理解のために幅広い領域から有識者が集結した「World Cancer Week 2021」


だからこそ、AYA世代という言葉の認知と、それに伴う理解が必要なのだ。タレントであり日本赤十字社の献血大使も勤める友寄蓮は、16歳の時に急性リンパ性白血病と診断された経験から、自身の感じた、周りとの隔たりを教えてくれた。

「私が入院した2011年のころはまだなかったのですが、今はSNSで『自分の名前に@白血病』と病名を載せることで交流が活発になった。でも……。そこでつながる人は全員が病気じゃない。がんと向き合う現実、自身の状態を説明することは、まず覚悟のいることなんです」

CancerXの岸田徹もこれに続く。

「僕は25歳の時にがんになり後遺症もあったのですが、自分で調べようにも情報が少ない。加えて自分と同じ状況の人が少ないため、隔絶感を感じていました」

情報の隔たりを感じ、共感が乏しく、そして望まなくても孤独になるAYA世代。もっと認知を上げるための術はないものか。

このイベントでは、がん経験者に限らない「別の視点」を入れることが特徴だが、AYAのセッションでは、Z世代を含む若年層へのプロモーションに携わる辻愛沙子、人間関係をテーマに働き方を問う北野唯我も加わり、それぞれの立場からAYA世代の認知の重要性について聞いた。

「積極的な関与」の熱さ


辻はフックとなるコンセプトや仕掛けを得意とするが、知られるための入り口として、まず、わかりやすい提案を投げかけた。

「LGBTQ=レインボーカラーという印象をお持ちではないですか? こういった言葉とビジュアルの2つのツールで発信することも可能じゃないかと思います。たとえば、会社でLGBTQを応援する意味を持つ〈アライ〉の人が、Slackのアカウント名の横にレインボーの絵文字を加えてみるといった、『味方だよ』という姿勢をメッセージングできる方法のひとつが色なんです」

辻はさまざまなプロジェクトに携わる中で、知ることの大事さを感じている。

「たとえば、言葉を軸にジェンダー問題を語るプロジェクト、若い女性たちの健康診断の受診率が低いことに着目しワンコインで婦人科検診を受けられるイベントなど、過去取り組んできた事例の中で思うのは、関わり合う人それぞれに主語があり、辛さや置かれている状況も違うのですが、まずは「私は、僕は」と主語で語らず、問題を客観視してみようということです。

ジェンダープロジェクトでは問題をインフォグラフで可視化することで新しく気づいたり理解が深まったりし、健診未受診の問題もイベント化したことで自分には関係ないと思われていた事実に気づいた人が多かったです」

セッションのグラフィックレコーダー
AYAセッションのグラフィックレコーダー/一家言持つ多様な有識者の発想がまとめられている。

これに対し北野は、違った視点で主語を提案する。キャリアや人材という面から、働く人の可能性を最大化させている彼独自の見方が興味深い。

「主語そのものを変えた方がいいかもしれない。自分の専門でもあるキャリアを主語にすると急に親近感が湧くし、理解が進む。病気に関わらず人は働いて生きていかなければならない。ただ、その中で、がんを主語にすると、がんじゃない人からは、一気に自分ごとではなくなるし、お互い不安な面が出る。でも、キャリアを主語にすると、苦労して治して、または治療中でも自分の強みとか、こんな成果が出せますという見方になる。

経営者として採用の場面で思うのは、この2、3年でLGBTQを支援する企業が増えていて、採用側はこのことを全く懸念と思っていない。むしろLGBTQの人たちへの期待する企業も増えてきた。結局、人は生きていく限り、誰かに必要とされていることが勇気につながる。だとしたら、主語をがんではなく、キャリアや働くこととつなげたほうが同じ土台で話しやすくなるのは間違いない」

友寄が反応する。彼女はがんという主語に仕事を奪われたことがある。
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文=上沼祐樹 編集=坂元耕二

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