その企業とは、短編動画アプリ「快手(クアイショウ)」を運営する快手科技(クアイショウ・テクノロジー)だ。
テンセントが支援する中国2位のショート動画プラットフォームを運営する快手の株価は、2月5日の香港市場への上場で、IPO価格から194%も急騰した。快手のIPOは54億ドル(約5700億円)を調達し、ウーバーが2019年5月に行った81億ドル規模のIPO以来、インターネット企業によるIPOとしては最大となった。
快手の時価総額は今や1600億ドルに達し、ディズニー(約3200億ドル)の約半分となっている。
中国国外では、同じ市場のライバルであるTikTok運営元のバイトダンスのほうがよく知られているが、快手はこの分野に先行して参入し、今も巨大な勢力を誇っている。快手はアリババ系のECプラットフォームである淘宝(タオバオ)と提携し、ライブコマースの普及を加速させ、携帯電話の利用者数が世界1位の中国の購買力を見せつけている。
世界2位の経済大国である中国は、パンデミックの最悪期から早期に立ち直り、GDP成長率をパンデミック前の水準に戻し、米国との緊張関係が続く中でも、国際的な大型株の売り出しに好機を与えている。
快手の主要株主にはテンセントのほか、同社の共同創業者でCEOのSu Hua(38歳)と、チーフプロダクトオフィサーのChen Yixiao(37歳)らが含まれており、2人の保有資産は約192億ドル(約2兆円)と、153億ドルに膨らんだ。快手の出資元にはモーニングサイドやDCM、バイドゥ、セコイアなども顔を揃えている。
CEOのSuは、グーグルチャイナとバイドゥの元幹部で、チーフプロダクトオフィサーのChenは、ヒューレット・パッカードの元幹部だ。
DAUは3億人以上
9月30日までの9カ月間の、快手のアプリやミニプログラムのDAUは3億500万人、MAUは7億6900万人となっていた。同社の目論見書に記載されたiResearchのデータでは、快手のユーザーは1日平均86分以上をこのアプリで過ごし、1日に10回以上アクセスしていたという。
iResearchによると、中国のモバイルインターネットユーザーは2019年に、1日平均4.35時間をオンラインで過ごしており、2025年には1日5.73時間をオンラインで過ごすと予測される。そのうち動画ベースのSNSやエンタメに向けられる時間は、2019年に約29.7%だったが、2025年には36.3%に達する見通しという。
快手のコーナーストーン・インベスター(上場時に株式を購入する長期保有を前提とした投資家)には、キャピタルグループやテマセク、インベスコ、フィデリティ、ブラックロック、ボユ・キャピタル、モルガン・スタンレー、アブダビ投資庁などの関連ファンドが含まれている。