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2021.02.08 12:00

アップルが示した「批判覚悟」のリーダーシップ

Getty Images

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昨年6月、アップルの最新スマートフォン「iPhone 12」には充電器やイヤホンが同梱されないとのリーク情報が伝えられると、既存ユーザーを含む多くから不満の声が上がった。アップルは実際に、充電器とイヤホンなしで、これまでよりかなり小さな箱でiPhone 12を発売。環境への配慮を理由として挙げた。

この決定については苦情が相次ぎ、消費者からさらに金を搾り取ることが目的だとか、電子機器廃棄物の削減には繋がらないといった見方も浮上。サムスンやシャオミはアップルの決定をあざ笑う広告を出し、自社はアップルには追従しない意向を示すような態度を取った。

ところがだ。シャオミの次期機種、そしてサムスンの最新機種ではなんと、充電器が付属されないことが決まった。その理由はアップルと全く同じ、環境への配慮だ。これにより廃棄物を減らすとともに、一つの箱でより多くの端末を配送できるため、輸送にかかる炭素排出量も削減できる。

当初は嘲笑の的だったこの方針は、すぐに業界全体のスタンダードになるだろう。これは、アップルが単にリーダーシップにより成し遂げたことだ。今は批判している他社もいずれは追従するだろうという信念を持ち、非難の嵐に耐えたのだ。

タブレットとスマホの充電器が全電子機器廃棄物に占める割合は、わずか0.1%(約5万4000トン)に過ぎない。アップルに限って言えば、全量の約半分にあたるせいぜい0.05%(約2万5000トン)程度だろう。だが、最初の一歩を誰かが踏み出し、ユーザーに対し、何年もかけて集まった充電器の山には全く意味がないことを示すとともに、他のメーカーに新たなスタンダードを浸透させ、電子機器廃棄物の削減を目標の一つにさせねばならない。

変化はこうして起きる。環境保護団体が、川や海を汚染しているレジ袋の無料提供廃止を求め始めた時には、これは店側が消費者に有料で袋を売りつける金儲けの手段にすぎないとする批判もあった。それから数年が経った今、レジ袋はもはや中心的な環境問題ではなくなり、次なる闘いの焦点はペットボトルに移っている。ストローなどの使い捨てプラスチック製品の撤廃は当初、ささいな一歩に過ぎないようにも思えたが、巨大市場を抱える中国を含むほとんど全ての国がこの問題を真剣に受け止め、行動を起こすようになった。

ファッション界ではパタゴニアなどが先駆者に


パタゴニアやエコアルフなどの企業が使用済みのプラスチックや漁網をアパレル製品にリサイクルし始めた時、多くの人はうわべだけの試みだとか、一過性の流行と受け止めた。それが今では、ファッション業界大手が自社のコレクションにリサイクル素材を使用することを強いられ、そのための廃棄物調達に尽力するようになり、状況は既に変わりつつある。

リーダーシップとは、批判を承知の上で、いずれは他社が追従することを見込んで行動に出ることだ。私はかつて、「イノベーションの価値は、模倣を避けることではなく、皆に模倣したいと思わせることにある」と言った。考えてみてほしい。こうした措置は、短期的にはコストがかかるが、中・長期的には利益を生む。これこそが、リーダー(率いる者)とフォロワー(付き従う者)との違いだ。

編集=遠藤宗生

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