「コロナ禍で急増する日本の自殺者数」。速いデータ開示に米国が注目

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自殺が懸念されるグループは?


先述の日本の研究データを見ると、女性の自殺率が著しく増加していた。ただし、ムーティエはこう指摘する。

「どの人口層でも最初の基準値が低い場合、数字が上昇に転じると、割合が急増したように見えるものだ。とはいえ、このデータはきわめて憂慮すべきものであり、特定の人口層に強い影響をおよぼす文化的・環境的要因と関連のある可能性がある」

ベッツによれば、米国でもこのパンデミックで新たなストレス要因が加わり、女性は特に打撃を受けているが、それが自殺率の上昇につながるかどうかは定かではないという。「米国の文化では、男性より女性のほうが不安や抑うつ感情をおおっぴらに表現する傾向がある(このような風潮は当然変わるべきだ!)。そのため、女性のほうが必要な援助を受けやすいと考えられる」。

新型コロナウイルス感染症が人々に与える影響は必ずしも一様ではなく、一部の人々の自殺リスクが特に懸念されるとムーティエは言う。

とりわけ心配されるのは、黒人・先住民・有色人種(BIPOC)のコミュニティ、地方の住民──それもすでに経済的に困窮している地域の人々、最前線の現場で働く人々、教育的・経済的な格差に苦しむ人々だ。ベッツはさらに、同僚の医療提供者のことも案じている。彼らは医師免許や職を失うおそれから、なかなか助けを求めることができないでいる。

特定のグループの自殺リスクが高い、もしくは異なる影響が懸念される場合、自殺予防のための介入策をもっとグループごとに個別に考える必要があるとミラーは言う。

「もっと細やかなやり方で介入していかなければ、引き続き多くの命を失うことになる。今の時代、男女間の違いをあげつらうのははばかられるが、現に性差は存在する。本気で平等な社会を望むなら、特定の人口グループに対してどのような介入策を講じるべきか、もっと具体的に考えていかなければならない」

ミラーによると、たとえば女性のうつ病は男性の2倍多いことが知られているが、多くの女性はうつ状態になっても発見に至らず、したがって治療を受けることもない。そうして見過ごされてしまうのだという。

「自殺リスクの早期発見のためのスクリーニング検査を日常的に行っているところは少ないので、必要な助けが得られないまま手遅れになってしまう」

「データを待っている場合ではない」


ムーティエは、このパンデミックを機に各地域の政策担当者やコミュニティの指導者、保健制度に関わる人々、臨床医が真剣に自殺対策に取り組むことを望んでいる。

「自殺対策を優先するために、自殺者のデータを待つ必要はない。特定の災害や経済の縮小が自殺リスクに影響を与えることは、過去の研究からも明らかなのだから。また最新の情報として、新型コロナウイルス感染症が人々のメンタルヘルスや経済面、社会的孤立の問題に影響を及ぼし、アルコール消費量や薬物の過剰摂取死の増加を招いているというデータもある」
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翻訳・編集=大谷瑠璃子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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