「コロナ禍で急増する日本の自殺者数」。速いデータ開示に米国が注目

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自殺のリスク要因については以前から研究が進んでいるが、このパンデミックでもそれらの要因は顕著に現れている。

ムーティエによると、主なリスク要因は「メンタルヘルスの悪化、メンタルヘルスケアへのアクセスの困難さ、社会的孤立、薬物使用の増加、経済的負担、人間関係や社会的支援の断絶、家庭内の暴力やトラウマ、一部の人々への差別による健康格差」などだという。

それでも、ひとつ幸いな事実がある。それは、自殺は未然に防げるということだ。電話相談の増加や自殺願望の高まりといった傾向は、それだけ人々が苦しみを抱え、助けを必要としている証拠なのだ。

ムーティエは明言する。「自殺防止策の効果は実証されている。規模を拡大して実施すれば、実際に集団の自殺リスクを下げ、自殺率を引き下げることができる。歴史的なパンデミックと共存しなければならない今、そしてこれからの時代こそ、自殺対策を強化し、ひとりでも多くの命を救わなければならない」。彼女が最高医務責任者を務める米国自殺防止財団は、その先鞭として「プロジェクト2025」と呼ばれる全国的な取り組みを主導している。目標は2025年までに米国全体の自殺率を20%引き下げることだ。

具体的な介入策としてムーティエが挙げるのは、メンタルヘルスサービスへのアクセスの向上、経済的なセーフティネットの整備、薬物やアルコールの摂取に関する教育、警察を介入させることなくメンタルヘルスのノウハウを提供できる危機対応サービスの展開などだ。また、一般の診療や救急治療の現場でも、予防的なスクリーニング検査を行うことが他の介入策と並んで期待される。ベッツは、社会的弱者を支えるプログラムや政策の必要性を強調する。

たとえば安全を確保して学校を再開し、保護者が復職できるようにするといった具合だ。さらに、今だけでなく将来を視野に入れて、社会的なつながりを確保していく必要がある。また、コロナ禍で銃器の販売が増加しているが、そうした大きな危険性のある道具は鍵のかかる場所に保管するなど、自殺リスクのある個人の手の届かない場所に置くことが重要だとベッツは言う。

ミラーは今後の自殺対策について、自殺防止行動連盟や自身の財団ウェルビーイング・トラストが発信する情報を挙げ、政策責任者や思想的リーダーに参考にしてほしいと話す。「あらゆる行政レベルにおいて、政治家は自殺防止対策に最優先で取り組むべきだ。これは精神保健制度だけの問題ではない。自殺を未然に防ぐことを、私たち全員の義務とすべきだ」。

翻訳・編集=大谷瑠璃子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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