「コート・ドール」斉須政雄シェフ 35年の進化とその土台となった友情

フレンチ「コート・ドール」斉須政雄シェフ


──その店で出会った(後にシェフと共にランブロワジーを開業する)ベルナール・パコー氏は、斉須さんにとってどんな存在ですか?

ベルナールとは、“迎合しない”といった社会との距離のとり方が共通しているところもあるのか、(ランブロワジーとコート・ドールは)お店として似た立ち位置のところになっている部分もあるかもしれません。

僕は修行時代も、店を持ってからも、斉須政雄という人となりは変わらずにやってきたように思います。評価を受けてから、豹変をして仮面をかぶるようなことはなかったです。ベルナールも、三ツ星の評価を受けても、出会った頃から何も変わらず、飄々と生きている人です。

そして、ランブロワジーも、ずっと変わらない素晴らしいお店です。ベルナールと出会えたことで、人ってこうやって階段を上っていくんだな、というのを見せてもらえたのはすごく大きかったです。上下関係が存在しているわけでもなくて、ただずっと一緒だよと言ってくれて。関係を維持できているのが、どこか不思議な感じもします。


コート・ドールの定番「オマール海老のテリーヌ ダニエル風」。ダニエルとは、ベルナールの奥さんの名前に由来する

彼が自分の話をどこかで伝え聞いた時に、「あいつ変わってしまったな」と思われるのは絶対にイヤですね。友達でいられるというのは、責任と尊敬があってのものです。そういうところを外してしまったら、関係が維持できないと思いながら生きています。店も同じです。

今の時代、損か得かの関係ばっかりで社会が成り立っていることも多い中で、この人と仲良しになりたいなぁとお互いに思えて、長い時間をかけても色褪せない関係でいられることは豊かさそのものであり、物質的なことではないんですよね。そこにいられている自分がすごく嬉しいです。

──斉須さんも迎合はしない、ということですよね。

“社会に迎合する”という行為に、何か“しこり”を感じます。融合する能力に抵抗があって、口当たりがよくない、とでもいうのか。惰性というわけではないのですが、毎日の繰り返しをできる範囲で続けてきました。昨日出せた力を、今日も出せるように。いつか“やられる”んだろうな、と思いながらまだまだ日々やり続けています。

冷静に自分を俯瞰して見られるようになったのは、ここ何年かの話です。自分は遅いんですよね、飲み込みも、それを体現するまでも。とにかく遅いんです。でも、それが故に、マイウェイでいられた部分があります。自分が至らなかったことが、結果的に多くのことを考えるきっかけになって、みんなとやってこられました。今も、常に自分を戒めながらやっています。


まさに、斉須さんの「マイウェイ」が産み出した店がコート・ドールそのもの。マイウェイの裏側にあるものは「遅さ」だったのか、と納得したような納得できないような気持ちになった。後半では、その「遅さ」の中で斉須シェフが培ってきたリーダーシップについて語ってもらう(後編:自ら率先、やるしかない。70歳シェフが示すリーダーシップ)。

文・写真=山本憲資

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