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山本憲資の百聞と一見の二兎を追う


──『国産牛テールの煮込み』『季節の野菜の蒸し煮』など、コート・ドールのメニューには開店以来、多くのゲストがそれを目当てに訪問するような“定番”がありますね。一方で、夏のスペシャリテ『冷製梅干し大葉シソのスープ』に代表されるような、季節ごとに必ず登場するもの思い浮かびます。それらはどういった思い入れで作られているものでしょうか?


コート・ドールの名物料理といれば、こちら『牛テールの煮込み』

定番メニューについては、心の拠り所というか、それがあれば平常心でやれるかな、というものです。季節がめぐるごとに、そこから少しずつ派生してくるものが、またできてきます。

料理には、僕の生きてきた20代、30代のパリでの修行時代への郷愁が入っています。今まで50年間以上働いてきて、あの時楽しかったよな、あそこであの人と一緒に働けてよかったなぁといったような思いがいつも胸にあるんですよね。どこか、そこに常に浸っていたくて。

自分の中では、達成感というより、いつも楽しみながらやっているところのほうが大きいですね。その中で定番になっているのは、お客さんが拒否しなかった料理です。拒否されなかったから、好きなものを出し続けることができた。いくら自分が良かれと思っても、「いらないよ」と言われたらそれは出せないですからね。


牛テールと並ぶ斉須シェフのスペシャリテ『季節の野菜の蒸し煮』

──そうして積み上げてきたキャリアの中で、斉須さんの中ではどのような進化がありましたか?

ボクシングと同じ部分があって、やり続けることで体得して、あるものを全面に出さずに凌げるようになってきましたね。

以前は“バリア”が厚かったんです。それがだんだん薄くなって、その上でエネルギーを効率よく使う術を身につけてこられたと感じています。最小のエネルギーで、最大のパフォーマンスを出せるようになってきました。

そこで少し余裕がでてきたことで、味だけではなくてチームとして働いていく上での“環境保全”にまで意識が網羅されるようになってきました。以前は、もう自分ありきのところがあって。ひとりで戦場につっこんでいってました。

今は、スクラムを組んで臨めています。俯瞰的な目線を持つことで、チームで戦えるようになりました。チームのリソースをしっかりと使い、細部のクオリティをさらに上げていくことができたと思います。(スタッフたちに目配せしながら)この人たちが僕の尻拭いをし続けるのも大変ですしね(笑)。

とはいえ、大きい組織で働くことは僕自身はあまり好きではないんですよね。今の規模も、少し大きいくらいです。パリ時代に働いた「タイユヴァン」(30年以上三つ星を獲得し続けたレストラン)が一番大所帯でしたが、そうなるとどうしても派閥ができてくる。そういう状況を僕はあんまり好まないです。

文・写真=山本憲資

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