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朝日新聞外交専門記者

Photo by David Mareuil/Anadolu Agency via Getty Images

新型コロナウイルスへの対応を巡り、菅義偉首相には次々に批判の矢が刺さり、ハリネズミのような状態になっている。内閣支持率もずっと低落傾向から抜け出せない。国会答弁に立つ菅首相の声はかすれ、党内外から体調について不安の声が上がるほどだ。

自民党幹部によれば、菅首相にストレスがたまっているのは事実だが、それは一部で言われている「会食の自粛」が原因ではないという。菅首相は1月18日の施政方針演説で、政治の師匠と仰ぐ梶山静六元官房長官の言葉を紹介した。自民党幹部は「あれこそ、総理が言いたかった部分。あそこにストレスの原因がある」と語る。

菅首相は演説で「国民に負担をお願いする政策も必要になる」「国民の食い扶持を作るのが、お前の仕事だ」という梶山氏の発言を引いた。自民党幹部によれば、菅首相は官房長官時代から、新型コロナの緊急事態宣言の発出に最も慎重だった。観光支援事業「Go To トラベル」の継続にも最後までこだわった。それは、新型コロナで国民に負担をかける以上、まず「食い扶持」を作っておく必要があるという信念からだったという。

だが、新型コロナはそんな菅首相の政治信条などに構ってはくれない。自分のやりたい政治ができないため、菅首相のストレスはたまる一方なのだという。

ただ、菅首相のそんな思いも、人々に伝わらなければ意味がない。政府関係者の1人は「菅政権にスピンドクターがいてくれたら」とぼやいた。スピンドクターとは、荒っぽく言えば、論点をずらしたり、自分に有利な証拠ばかりを示したりする行動(スピン)をうまくこなしてみせる人のことを批判的な意味を込めて使う言葉だ。この関係者によれば、安倍政権はその政権自体が、皮肉でも何でもなく、素晴らしいスピンドクターだったのだという。

例えば、北朝鮮による日本人拉致問題。安倍政権は内閣の最重要課題と位置づけ、毎年のように「今年が勝負の年だ」と強調した。だが、7年以上続いた第二次安倍政権の間、拉致被害者は1人も帰って来なかった。拉致問題を起こした北朝鮮が悪いのは当然としても、安倍政権の責任を問う声も特段見られない。同じように、「北方領土返還だ!」と息巻いた対ロシア外交も何の成果も上げられなかった。

内閣官房の元幹部は「安倍政権は看板の掛け替えがうまかった。看板通りの成果が出ないと、すぐに新しい看板を持ってくる。成果の有無を検証する前に、別の看板を宣伝するから、みんな、うまく政治が機能しているような錯覚に陥った」と語る。

文=牧野愛博

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