なぜ悲劇は起きたのか
2億ドル以上の資産があって、しかもそれにアクセスできないなんて、そんなことありえるだろうか?
信じられない話だが、これはサンフランシスコ在住のプログラマー、ステファン・トーマスの身に実際に起きた出来事なのだ。正確に言うと、7002 BTC(※ビットコインの通貨単位)が入ったデジタルウォレットのプライベートキーを、特殊なハードディスクに保存したところ、「アイアンキー」のパスワードを思い出せなくなってしまった。
彼がその仮想通貨を入手したのは10年前のことだ。スイスに住んでいた頃、ビットコインを紹介するアニメーション動画「ビットコインって何?(What is Bitcoin)」の制作を手掛けた。依頼主はその頃からビットコインを使っていたので、報酬はビットコインで支払われた。ウォレットのキーを保管したアイアンキーのパスワードはその年のうちに忘れてしまったが、当時のビットコインは1 BTC=5ドル程度だったので、さほど気にならなかった。
ところが、その後に状況が変わってきた。
「夜、ベッドに入って、どうにか思い出せないかと考えてみるんです」と、トーマス氏は『ニューヨーク・タイムズ』の取材で語っている。
「これじゃないかというものを思いついて、パソコンに向かうんですが、そのたびにハズレ。イライラがつのるばかりです」
2011年に紛失したパスワードを当てようと、何年も努力しているが、これまでに8回挑戦して成功していない。10回間違えるとアイアンキーが永久にロックされるので、残されたチャンスはあと2回だ。開かないウォレットの存在をいったん頭から追い出すため、ハードディスクごと安全な場所に隠し、いつかどこかの優秀な暗号専門家がアイアンキーのロック解除方法を見つけるのを待っている。
「心身の健康のために、もう過去のことにしてしまおう。そういう境地になっていますよ」とトーマス氏は語った。
yo this is incredible https://t.co/dXbOVx7g4B pic.twitter.com/sOFR166jYB
— Steadman™ (@AsteadWesley) January 12, 2021