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2021.02.10

大規模集中から自律分散へ。 この地球を次の世代に残すために、いま私たちにできること

WOTA代表取締役 前田瑶介(左)、炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長 村木風海(右)

自律分散型の水循環システムで世界の水問題解消に挑む前田瑶介と二酸化炭素研究で地球温暖化を止め火星開拓を目指す村木風海。Forbes JAPANの「30 UNDER 30」に選出された次代のフロントランナーふたりが、自動車メーカーAudiのカーボンニュートラルへの取り組みに共鳴し、未来の循環型社会の実現へ向けて語り合った。次の世代へ美しい地球を残していくために、いま私たちは何をするべきなのか。それぞれが抱く強い思いを、Forbes JAPAN WEB編集長の谷本有香が聞いた。


谷本有香(以下、谷本) 最初に自己紹介からお願いします。

前田瑶介(以下、前田) 私がCEOを務める「WOTA」では、持ち運び可能な小型の水再生システム「WOTA BOX」の開発を手がけています。

私が生まれ育った徳島県の山間エリアでは、上下水道設備はなかったけれど、湧き水を主体とした簡易水道で水を豊かに使うことができていました。地元では、水だけでなくさまざまな資源が身近な存在であり、使用後も可能な限り再資源化する、循環型の利用が当たり前でした。

一方、都心の上下水道システムは高度化していますが、巨大化したシステムに対して、生活者レベルではコントローラビリティがなく、ブラックボックス化している。私が上京したのは東日本大震災の前日で、被災後に断水を経験し、どうすれば復旧するのかわからなかった。いきなり都市インフラの課題を実感しました。日本の水道事業は、水道事業体を集めて広域化・大規模化することで効率化を図ろうとしています。私は逆に、人が使った水をその場で再資源化し、最小単位で事業として成立できれば、給水人口が増減しても環境負荷が変わらない状態を実現できると考えてきました。私はそれを自律分散型の水循環システムと呼んでいます。


WOTA株式会社 代表取締役 前田瑶介

村木風海(以下、村木) 大規模集中型ではなく自立分散型を目指すのは、私も同じなので共感できます。

私が機構長を務める「CRRA(炭素回収技術研究機構)」には「地球を守り、火星を拓く」というスローガンがあります。CRRAは地球温暖化を止めて人類77億人を全員救う研究から、人類を火星に移住させる研究までを一貫して行っている研究機関です。

スタートは小学校4年生に遡ります。当時、祖父からもらったスティーヴン・ホーキング博士のスペースアドベンチャー小説「宇宙への秘密の鍵」を読んだことが研究の出発点になりました。小説の小学生の主人公は「どこでもドア」のような装置を使って、いろいろな宇宙を旅するのですが、その中に、火星なら移住の可能性が高いと書かれていました。赤い砂漠が広がり青い夕日が沈む。小説に描かれた神秘的な火星の描写に心を奪われ、自分は必ず火星に行く確信に近いものが芽生えました。そこから「火星に住むには」というテーマで研究がスタートしたわけです。

火星の大気の95%は二酸化炭素なので、住むためには二酸化炭素を集める必要がある。それが現在の炭素回収研究につながります。中学生のときに地球温暖化問題の専門書を読んで、科学の力で気候変動を止める気候工学という新しい学問に出合い、同時に二酸化炭素を直接空気中から回収する技術の存在を知りました。海外の事例は大規模な化学工場ばかりだったので、自分は、誰もがボタンひとつで簡単に温暖化を止められる世界をつくろうと考えました。高校生のときに世界最小の二酸化炭素回収装置を発明して、それが総務省の事業に採択され現在に至っています。

いまでは大気中から集めた二酸化炭素で燃料をつくる研究を進めています。空からガソリンの代替となる液体燃料を製造するので「そらりん計画」と名付けました。すでに2017年にCO2からメタンを合成することには成功しています。この計画が実現すればクルマも船も飛行機も、世の中のすべての乗り物を動かすことができ、世界中のCO2を一気に3割削減できる。また、地球の外に目を向けると、例えば人類の有人火星探査においては、現在の技術では宇宙船に片道分の燃料しか積めないため、地球―火星間の往還は難しいとされていますが、この技術があれば火星で燃料を合成して、地球に帰還できるようになります。一見バラバラに見える「地球を守り、火星を拓く」ことは実はCO2でつながっているのです。


一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長 村木風

谷本 お二人の同世代は、環境やエコロジーにセンシティブで、上の世代が経済効率性を優先し置き去りにしたことが、実はとても大切であることも認識しています。環境問題やSDGsの課題に向き合い、それを専門領域として取り組んだ過程をお聞かせください。多くの選択肢の中で「ここだ」とピンを打ったきっかけは何だったのでしょうか。

前田 私の場合はたまたまです(笑)。

徳島で行っていた、水質浄化の凝集剤の研究には、ある程度の手応えもありました。γ-ポリグルタミン酸をプラントでつくるのではなく、各家庭で抽出し取得できる装置があればいい。それが研究の起点でした。

そもそも、なぜ水だったのか。それは、水がいちばん難しそうだったからです。化学的に難しいのではなく、文化的、宗教的な意味合いや生活文化など、水の研究は人間らしいテーマとも向き合わなければならない。それが面白そうに思えた。世界中の人文や自然科学を、水を通して理解できるのではないかと思ったからです。

水道のメーターは上水道側だけで、誰がどれくらい下水道に汚れた水を流しているかはわからない。それは無関心の現れでもあると思うのです。油を排水口に流してはいけないと言われていますが、そこにリアリティがないのは、前述の通り下水道の先がブラックボックスのようになっているからです。

自分たちがつくろうとしている自律分散型の水循環処理システムは、排水処理のコストを利用者が負担するもので、汚く使うとコストが上がるし、きれいに使うとコストが下がる。自然とのインターフェイスとしての機能があり、自然や資源とのつながりを当たり前に感じられるようにすることが大事だと考えているからです。

徳島の藍染工場の職人は、廃液を川に流すときに後ろめたい気持ちになると言います。生産活動のなかでの後ろめたさから、水を再生処理して循環利用することを考えるようになった。彼らは自然とコミュニケーションできる状態にあるので、それが行動を変えるきっかけになったのです。そうしたコミュニケーションのあり方が、都市の生活者でももてるようになることが大事なのだと思います。

生産に関わる人たちが気持ちよく、後ろめたさがなく、ものづくりに取り組んでいるのか。つくることの気持ちよさと使うことの気持ちよさ、そのよい循環があるプロダクツを買いたいですよね。

谷本 村木さんは汎用的で人類が幸せになれる課題解決に挑んでいますね。その視点はどこで育まれたのでしょうか。

村木 私の場合は好きなことを好きなだけ探究してきた感じですね。子どものころから、誰も見たことがない遠くの世界を見たいと思っていました。小学4年のときに「はやぶさ」が地球に帰還して、さらに遠い宇宙への興味が広がっていきました。私の夢は人類初の火星人になることなので、自分が人類で最初に火星に降り立ったら……、という想像をよくします。おそらくアポロ11号の船長のように地球上のたくさんの人々から賞賛されるでしょう。でも、声援を送ってくれている人たちがいる星が気候変動によってタイタニックのように沈んでいくのはすごく寂しい。そこで人類が太陽系規模の宇宙進出をする時代になっても、地球を誰もが安心して帰って来られる「実家」のような星にしたい。だからこそ、2030年までに地球温暖化を解決し、45年までに火星に行くプランを描いているのです。

ですが、義務感や使命感で取り組んでいるだけではありません。どちらかと言うとたまたま自分の楽しいことが地球温暖化解決だっただけ。「趣味で温暖化を解決しています」、そういうノリでいいんじゃないかと。環境問題の解決は何かを我慢したり、頑張ったりしなければならないと思われがちです。でも実際には、CO2を集めることは火星開拓につながり、温暖化の解決イコール宇宙開発なんです。我慢するのではなく、生活を豊かにしながら地球温暖化を解決して、「CO2集めるの楽しい!」とワクワクしていたらいつの間にか火星にも行けた。そんなふうに、ゆるっとふわっと、そういうポジティブな行動改革が最終的には効いてくるように思います。



谷本 パンデミック後のニューノーマルの時代をお二人はどう捉えているのでしょうか。

前田 歴史を振り返ると、大災厄があると次の100年に向けた発明が生まれている。下水処理場や下水道の発明は伝染病流行の衛生危機がきっかけでした。冷静に考えると、すでにある都市の地面下に下水管を配するのは相当のエネルギーが必要だと思います。それを危機に直面したエネルギーで実現した。私たちは次の100年に向けて、どのように物事を組み立てていくのか。「当然」をあらゆる領域で見直しても構わないという、ある意味コミュニケーションをショートカットしやすい状況にあり、変えようとするエネルギーは高まっている。そうした状況にあるのかなと思います。

村木 ニューノーマルの暮らしを私は「みんなで宇宙旅行している」と捉えているんですよ。地球温暖化が解決しても人口爆発の課題は残るので、地球以外への移住は必要で、人々は火星到着までの半年間以上、狭く閉ざされた宇宙船の中で暮らさなければならない。そうした実験はこれまで少人数でしかできなかったけれど、ロックダウンを体験して、宇宙の閉鎖環境の実験を人類全体ですることができたんです。人は意外となんとかなることが分かったし、必要なものも見えてきた。いろいろな発明も生まれました。多くの方々が亡くなった悲しい現実を受け入れながらも、現状をポジティブに捉えて、私は人類の火星移住の可能性がさらに高まった一年だと思っています。

Audiの環境への取り組みをどう評価するか


谷本 Audiは2025年までに全生産拠点のカーボンニュートラルの実現を目指すなど、さまざまな環境対策に取り組んでいます。そうした企業活動がどれほど未来にインパクトがあるのか、同社の取り組みをお二人はどう見ていますか。

村木 Audiが、クライムワークス社(スイス)と提携し、大気中のCO2を直接回収して「石」に変えて貯蔵するプロジェクトには、以前から注目していました。

2030年までに全世界のCO2排出量を半減しないと、1.5℃目標を達成できないし、未達成だと破壊的な気候変動が進み取り返しがつかなくなる。タイムリミットは9年です。

私の試算では、クライムワークスのプラントを山梨県の半分の面積に設置すると、全世界のCO2排出量をほぼ相殺できました。予算は50兆円くらい必要ですが、国が本気を出して、企業やビリオネアに出資を募れば集まる金額だと思うし、論理的には温暖化を止められる技術は存在している。この事実はもっと広めるべきだと思います。


Audiがクライムワークスと推進している大気中のCO2を直接回収して地下に貯蔵するプロジェクト

このプロジェクトで集めたCO2は地中に埋めているわけですが、CO2でガソリンを合成したり、そこから石油化学の技術を応用してプラスチックをつくり、クルマの車体に採用して「この自動車は空気でできています」と言えるなら最高ですね。

世界で内燃機関車の規制が始まっていますが、私が開発したCO2から合成する「そらりんディーゼル」を使うだけでカーボンニュートラルが達成できます。アウディもe-fuelというカーボンニュートラルな合成燃料を研究しているそうですね。仮に世界規模で燃料を変えることができれば、いまの生産体制や工場設備を変える必要はなく、さまざまな仕組みをそのまま維持できるし、いますぐに温暖化を止めることができます。

前田 空気中に放出されるCO2の量そのものを減らしたいのか、CO2の健全な循環システムを目指すのか。根本的に発想の違いがありますね。村木さんは内燃機関を使いCO2排出量が増えても、それを回収するサイクルが確立されれば問題ないという考えですよね。

村木 そうです。プラマイゼロならまったく問題ありません。エンジンで動くクルマにはエンジンで動くクルマならではの魅力があると思いますし、ガソリン車の規制を何も考えずに受け入れるのではなく、既存の設備やモノを活用したまま、発想を変えて生き残る道ももっと模索すべきですよね。でないとタイムリミットに間に合わないので。大きい乗り物ほど電動化は難しいので、私は、内燃機関そのものは残り続けると思います。

谷本 前田さんはAudiの工場廃水100%再利用のプロセス確立をどう評価しますか。

前田 私たちにも工場の排水の循環利用の相談は増えていますが、この領域ではAudiは先駆者と言えます。メキシコは地下水源の枯渇が深刻で、コロラド川流域でもアメリカ側の上流にある飲料工場で水を浪費し、メキシコの農業従事者は水不足で困っている。Audiの取り組みは、工場で地域の雇用を増やし、同時に水資源を保全することができる。メキシコの事例は、第三世界からの搾取の構造ではなく、企業進出により環境問題の解決が前進する、新しいグローバリゼーションのあり方としてとても興味深いです。物理、化学、生物学的なプロセスを組み合わせて、難しい水処理をメキシコで実現した意義深いプロジェクトだと思います。


Audiメキシコ・サンホセチアパス工場のサスティナブルな取り組み

谷本
 工場廃水100%再利用をなぜドイツの本社工場から始めるのではなく、メキシコ工場だったのか。その理由がわかりました。Audiは、地域それぞれの課題に即した工場をつくり、地域の環境を保全しながら生産しているわけですね。

前田 20世紀の産業は環境負荷を外部化して成立してきた背景がある。アメリカならメキシコがそうですが、バリューチェーンの周縁部分を大事にするかどうかが企業の価値や寿命を決めると言っていいでしょう。メキシコのプロジェクトはメッセージ性の強いアクションだと思います。私がクルマを購入する際は、単なるモノとしてではなく、そうした背景も含めて検討していきたいですね。



谷本 最後に、理想の循環型社会実現に向け改めておふたりの所見をお聞かせください。

前田 例えばシャワーは、水温20℃の水を、エネルギーを使い40℃まで高めて、それをその場で捨てている。熱のエネルギーも捨てることになる。また、日本では飲料レベルまで浄化した水をトイレで汚物を流すために使っている。自然のように見えてぜんぜん自然ではないですよね。資源の使い方をこれからの100年で変える必要があると思います。

水利用を自然と人のコミュニケーションとして捉え、その場にある水を循環して使い続けることが常識になり、98%の循環率なら同じ水量で50倍以上の人々が生きていける。おそらく100年後には「なぜ100年前の人類は水を循環利用しなかったのだろう」と話しているはずです。水は長年コミュニケーション上の構造の変化がなく、人類が本気を出していない分野でした。

世界のみんなで一緒にやれば解決できるから、みんなでやりましょう。そんなスタンスでさまざまな課題に取り組んでいきたいと考えています。

村木 みんなでやればできることにリアリティを与えるためには、水でもCO2の分野でも小型分散化が鍵になる。私もそれを重視してきました。私の研究の一貫したコンセプトは、「中身は最先端、見た目はゆるふわ」。ゆるっとふわっと、みんなが楽しんで課題解決ができればよいと思っています。

私は好きなことを好きなだけやってきた。地球上の全員が何でもいいから自分の好きなことを好きなだけやれば、興味のベクトルはそれぞれ違うので、結果的に幅広い分野を網羅できる。私にとっては「ワーク・ライフ・バランス」ではなく「ワーク・アズ・ライフ」。好きなことを仕事にするのは難しいと思いがちですが、究極まで本気で取り組んで突き抜ければ意外と実現できるのではないかと思います。それがゆくゆくは地球を守り、火星を拓くことにつながるのではないでしょうか。



前田瑶介(まえだ・ようすけ)◎WOTA代表取締役。1992年生まれ。東京大学、同大学院で建築学を専攻し、東京大学総長賞受賞。teamLab等でエンジニアとして勤務後、建築物の電力需要予測アルゴリズムを開発、売却。その後、WOTAのCEOに就任。自律分散型水循環システム「WOTA BOX」を開発。「WOTA BOX」はAIやセンサー、フィルターを駆使してWHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインに準拠した清潔さに維持しつつ水再生処理を行う。その実力は、100リットルの水で100人がシャワーを繰り返し使用できるほど。普通のシャワーに比べて約98%の節水となる。

村木風海(むらき・かずみ)◎一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。2000年生まれ。東京大学教養学部前期課程理科一類。総務省公認異能ベータ。地球温暖化を止める方法から、人類の第二の居住地としての火星移住・開拓まで一貫して研究を行う研究機関「CRRA(シーラ:炭素回収技術研究機構)」を立ち上げ機構長を務める。CO2直接空気回収や、空気からの石油の代替燃料を製造する研究を行っている。21年1月より大手化粧品メーカー・ポーラ化成工業フロンティアリサーチセンター 特別研究員を兼任。

▶Audiの考える資源保全とは

 


 

 

Promoted by Audi Japan│text by Kazuo Hashiba│photographs by Shuji Goto│edit by Akio Takashiro

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