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Forbes JAPAN Web編集部


「富裕層はたっぷり果実を受け取り、節税の方法もたくさんある。タックスヘイブンみたいなところに本社を移したりして、結局税金をあまり払っていない人が多いんですよ。累進課税も緩くなっている。こんなやり方が分断の原因なのだから、さっさとやめた方がいい」

富裕層に偏っている果実をまんべんなく分配し、労働にふさわしい対価を得られる仕組みに転換しなくてはならない。適正な分配が行なわれることで内需が拡大し、経済が循環していく。こうした循環を生み出すことが、分断を修復するための第一歩だと、橋爪は語る。

「分断」が他人事ではない日本


競争にさらされ自分の居場所を確保したいと思うあまり、人種差別的な見方にとらわれるようになる人々もいる。ホワイトナショナリストだ。そうした動きに対抗する人々との間の亀裂は拡がり、米国社会の分断に輪をかけている。

ここで橋爪は、ホワイトナショナリストと日本社会の意外な類似点を指摘する。

「ホワイトナショナリストの人々にとって、理想的なのは日本の社会らしいんです。日本には日本人しかいなくて、日本人だけで楽しくやっている。白人だってそんなふうに暮らしたいよ。そんなふうに言われて、はたと気づくんです。日本は日本第一の日本ナショナリストなんじゃないか。

そういう構造が見えてくると、『アメリカは分断で大変ですね』なんて、日本人は言ってすませるわけにはいかないでしょう。アメリカの人々の苦しみと、日本人が自国の問題に気づかずに安穏にしている現状とは、メダルの表裏の関係になっている。考えてみれば当然ですね、グローバル世界なんだから」

ベトナム人技能実習生を巡る問題など、安価な労働力として外国人労働者の人権を軽視するような社会の構造が、日本には存在する。こうした構造は、かつて黒人たちを労働力として搾取し、根強い差別へと発展させた米国社会と、根本的に何が違うのだろうか。このグローバル世界において、アメリカの分断は他人事ではない。

大統領令
「我慢と忍耐」を要請できるリーダーシップを取れるのか(Getty Images)

「我慢と忍耐」のこれからの4年間。トランプのふりまいた幻想をいまだ支持する人々にとっては、厳しい期間となるだろう。

「現状を見つめ自分の頭できちんと考えれば、アメリカはもうこれまでのようにはいられない、世界のために私ができることはなんだろう?と考えることができるんですけど、でもそんな面倒なこと、ふつうは考えない。そうすると、悪者を仕立てて彼らのせいにしたくなるんですよ。移民が悪いとか、中国やイランが悪いとか、誰かのせいにするのは簡単です。こうした簡単なセオリーの方が、人々に受け入れられやすいのですね」

バイデンはトランプ支持者たちとどう向き合っていくのだろうか。これもやはり、個々の人間の生き方をどう支えるかという社会システムの再構築が、重要な課題となるだろう。橋爪はいまのアメリカをこう表す。

「社会保障がなく、コミュニティが分断され、個人が寄る辺なく怒っている」

しかし、こういった状況はアメリカの弱みだが、強みの裏返しでもあるという。「自由や可能性ってそういうことだし、競争ってそういうことだしね」

個人のパワーが分断を助長するものではなく、再びアメリカを押し上げる原動力となる日は来るのだろうか。なにはともあれ、国が最低限の生活を保障する仕組み作りをすることなしには、実現は遠いだろう。

「バイデンは聞く耳をもっている人で、チームを組織する素地があると思う。トランプがいままで脇へ追いやっていたブレーンやインテリが戻ってくる。それが昔ながらの古狸の集まりになってしまうか、それともフレッシュな競い合いのなかからよい政策が出てくるか。どっちに転ぶかはわからないけど、トランプのときよりはマシになるのでは」

怒れる国民の内実に耳を傾け、政府側も忍耐強く、抜本的な改革を行なうことができるだろうか。バイデン新政権は始動したばかりだ。


橋爪大三郎


橋爪大三郎◎1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『アメリカ』『中国vsアメリカ』(いずれも河出新書)など著書多数。


前編はこちら>「カトリック系大統領」誕生から考える、現代アメリカの宗教観

文=河村優

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