人生で下した決断の中で最も正しかった「毎日がワーケーション」という選択

浅生亜也さん


浅生:もう一つのきっかけは、5年ほど前に休暇を取って伯父が闘病していたスウェーデンのストックホルムを訪れたことです。伯父を見舞った後、夫の友人からの誘いで街から少し離れた郊外で残りの休暇を過ごしたのですが、そこはいわゆる田舎町。「村」と言ってもいいほど長閑なところでした。長年スウェーデンに住んでいた伯父も毎夏サマーハウスで過ごしていましたが、この友人は自分の手で建てたサマーハウスが自慢でした。

その数なんと10軒! それらを気分によって使い分け、友人を招待し、週末を過ごすというとても素敵な日常を送っていました。私たち夫婦も彼が建てた湖畔の一軒に滞在しましたが、湖に沈む北欧の夕焼けを見ながらシャンパンを傾け、いつかこんな風に暮らしたいとうっとりしました。

そんなライフスタイルへの憧れと同時に、それが一つの目標になりました。考えてみれば、その友人は世界中を飛び回るスウェーデンの国交省の役人。彼は最先端の仕事をバリバリこなしながらも、この田舎の拠点と世界の主要都市を縦横無尽に飛び回っていました。こんなライフスタイルがあるのかと、そのしなやかさに驚きました。軽井沢に引っ越したのはこの半年後でした。

鈴木:軽井沢に移住してみてどうですか。一番大きなライフスタイルの変化は何ですか?

浅生:とても満足しています。一度も後悔したことがないのです(笑)。よく同じ質問をされるのですが、「私がこれまでの人生で下した数々の決断の中で『最も正しかった』と言い切れるのが軽井沢への移住です」と答えています。

都会でどれだけの生活騒音に慣らされていたのかと気付かされるほどの静寂や、季節の移ろいをちゃんと感じながら生活していることなど、環境が変わったことで体調がよくなったのは当然なのですが、囲まれている自然の中で心身ともに浄化されたような気がしています。

そして、なにより軽井沢は明治時代のサロン文化にはじまり、時代を超えて引き継がれてきた「カルチャーキャピタル」と、別荘族を中心とした「ソーシャルキャピタル」の高さが魅力です。移住してからは、交流の幅が一気に広がりました。

一見、夏や大型連休にあちこちで開かれるパーティーが軽井沢のイメージでしょうが、こういった社交だけではなく、別荘を持つ多様な人が組織や立場を超えて社会課題を議論したり、アートや音楽の支援活動をしたりするなど、軽井沢のコミュニティを通して、私自身の社会への関わり方や選択肢が広がりました。

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軽井沢のご自宅で、会社のメンバーとBBQ

鈴木:軽井沢で様々な方々と議論や文化支援活動をされるのは素晴らしいですね。ワークスタイルにも変化がありましたか?

浅生:移住した半年後に代表職を退任し、半年ほどの自主的サバティカル休暇を取ったんです。この貴重な時間を軽井沢というノイズレスな環境で過ごせたのはとても有意義でした。

そして、2017年の秋に2度目の起業であるSAVVY Collectiveを創業しました。立ち上げる際、私自身が軽井沢をベースに働けるように会社の在り方を優先しました。そのため、当社は最初からオフィスを持たず全員リモートワークです。テレカンを行い、社内SNSで日常の会話をし、1〜2カ月に一度のペースで会食をしながら互いのエンゲージメントを高めるというスタイルです。

そのため、コロナ禍の自粛期間も私たちの日常のワークスタイルは全くと言っていいほど変わらず、困ることもなかったくらい。私に至っては毎日がワーケーションです(笑)。
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文=鈴木幹一

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