人生で下した決断の中で最も正しかった「毎日がワーケーション」という選択

浅生亜也さん


鈴木:「毎日がワーケーション」、素晴らしいライフスタイルですね。最初に浅生さんと軽井沢でのワーケーションの推進について話したのは2016年で、起業された頃ですよね。

浅生:そうですね。私は10年近く観光業界のダボス会議と言われているWiT(Web-in-Travel)を日本で主催しているのですが、「ワーケーション」という言葉は既に2012年ごろからそのカンファレンスで議論されていました。日本ではとかく会社の制度に照らし、有給扱いになるのか? とか、交通費は誰が負担するのか? と言ったつまらない議論になっていますが、ワーケーションは世界レベルで起こっている新しい働き方や、新しい旅のあり方の話なんですよね。

そして海外では、これに個人の幸福度や仕事そのものの生産性といったKPIがセットで語られます。日本ではローカルコミュニティとの関係人口の創出などの文脈が加わってきますが、それも意味のあるKPIだと思っています。

鈴木:ワーケーションを今後日本でも広げていくためには、何がポイントになるでしょうか?

浅生:ワーケーションの市場にはとても大きな経済的ポテンシャルがあります。特に観光業界においては、これまでなかなか進まなかった地方活性化や分散休暇などの取り組みが解決できると考えるからです。なので、広がるかどうかという潮流を読み取るのではなく、むしろ促進していこうというのが私の目下の取り組みです。

鈴木:具体的にはどのような取り組みなんですか?

浅生:ワーケーションを単なる経済活性化の「手段」として捉えてはダメだと思うのです。

ゴールは、ワーケーションやテレワークといった言葉で区別しなくても、場所や時間に捉われないしなやかな働き方や、人生のハンドルを握る能動的な生き方は心身の豊かさにつながるのだ、と自覚する社会にしていくこと。そう志向することは当たり前だと考える社会になることです。コロナ禍で強制的働き方改革が起こったのはチャンスですよね。ゴールに近づく大きな一歩になっています。

鈴木:浅生さんが移住されていることこそが、このワーケーションやテレワークの促進には役立ちそうですね。

浅生:私がこの軽井沢に住み、事業を行い、多拠点を自在に移動するライフスタイルを送ってきたのは、自分に課した実証実験だったようにも思います。これまでSNSを通して四季の様子や軽井沢のライフスタイルを赤裸々に公開してきました。ここの風景は“映える”ので、私に限らず発信された様々な情報を目にして、軽井沢に行きたい、ライフスタイルに触れたいと憧れる人は少なくないと思います。

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五感が刺激される緑の中の浅生亜也さんの軽井沢のご自宅

鈴木:コロナ禍で軽井沢への移住者が急増した要因は何だと思われていますか?

浅生:密でなく、感染が防げて、都心へもアクセスがいいことでしょうか。自然環境の豊かな土地は他にもあります。それでもこの軽井沢の人気が沸騰したのは、ライフスタイルが魅力的だからだと思うのです。

旅の目的地を決めるとき、テーマパークに行きたいとかイベントに参加したいという動機もあるかもしれませんが、やはり異文化に触れたいとか、その土地の生活の営みを垣間見たいと考えるのではないでしょうか? 「住まうように滞在する」という素敵なフレーズが生まれる背景にもそういうモチベーションがあるからだと思います。

少し遠回しで逆説的かもしれませんが、詰まるところ豊かなライフスタイルが溢れているところは、魅了的な旅のデスティネーションになると考えているんです。
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文=鈴木幹一

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