バイデン新大統領の就任式が行われた1月20日を境にして、最高権力者のツイートで政治や株式市場や国際情勢が翻弄される状況はパタリと止み、私の住むニューヨーク市も4年ぶりに落ち着きを取り戻した。通りのニューススタンドに平積みにされている中国語の新聞の見出しには、「特朗晋(トランプ)」の代わりに、「湃登(バイデン)」という文字が躍るようになった。
トランプ政権がさまざまなデータの収集を十分にしていなかっただけでなく、従来のようなスムーズな引き継ぎもないままに政権移行が行われたため、大統領が意思決定の基にするデータさえもない、あるいは不足したままでの船出になっている。
ワクチン配布計画も策定していなかったという報道もあり、政府としてワクチンがどこに何回分のものが残っているか把握できていないとも言われている。
ヤンキースタジアムやメッツの本拠地であるシティフィールドを使用してのニューヨーク市のワクチン接種計画も、肝心のワクチンが確保できず、いまだに一般向けには開始されていない。そればかりか、春にならないと始まらないらしいと先延ばしになり、トンネルの出口に見えていたはずの光に辿りつくまでには思ったよりも時間がかかりそうで、気長に待つしかない状態が続いている。
そしてまた、アメリカの株式市場も、これまでにない参入者たちの予測もつかない「行動」により、やや混迷を深めている。
海外からの投資額が初めて中国より下回る
2016年からのトランプ政権以降、アメリカは輸入関税を掛け、保護貿易主義、反国際協調主義を進めてきた。国連貿易開発会議(UNCTAD)の発表では、海外直接投資(FDI)における対米投資額は、コロナ禍の影響があったとは言え、2020年は49%減の1340億ドル、対中投資額は4%増の1630億ドルと、初めて対米投資額は対中投資額を下回った。
世界史的には、19世紀以来、自由貿易主義と保護貿易主義は、双方の間で揺れ戻しを繰り返してきた。
遡ると1819年に、イギリスの経済学者であるデヴィッド・リカードが「経済学及び課税の原理」で、伝統的貿易理論といわれる比較生産費説理論を提唱し、自由貿易が経済全体の発展をもたらすというメカニズムを理論化してみせた。このため、イギリスは1830年代に自由貿易に舵を切り、これを主導し、1860年代から70年代にかけて自由貿易のネットワークがヨーロッパの主要国間で完成していった。
かたやアメリカは、南北戦争以降、19世紀になると、ドイツと並ぶ工業後進国として保護主義を強めつつ、国力を伸ばしていった。しかしながら20世紀に入り、1929年の世界恐慌を契機に、イギリスも保護主義、ブロック経済圏の確立に動き、アメリカもこれに追随、第二次世界大戦の一因となった。
そして、大戦後は、長らく自由貿易主義を維持することが世界の共通認識であったが、イギリスが再びEUを離脱するなど、自国経済の保護へと移っていこうとしている。