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ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信


ストリーミングビジネスへの危惧も


また、自分の遺産の相続人たちが、将来さらに税収構造や税率が変わっていくなかで、受け継いだ楽曲の評価をめぐって国税局と長い戦いをするよりは、いま現金に換算しておいたほうが、子孫の心の平安のためだという判断も当然ある。

たとえば2016年に亡くなったミュージシャンのプリンスは、約80億円の相続財産と申告されていたが、4年たち、国税局はこの財産は100億円から300億円の価値があるとして32億円の追徴課税を課した。プリンスの遺族はさっそく国税局を訴訟している。

プリンスの遺族は決して脱税をしたわけではなく、相続財産の評価も、弁護士だけで数百人もいる大きな法律事務所を使って評価しているので、このギャップには相続人たちも納得がいかない。これからも長い国税局との法廷バトルを続けなければならないというわけだ。

ディランの楽曲売却の件は、音楽もビジネスとして考えなければ残るお金も大きく違ってくるという彼なりのメッセージと捉えることができる。

コロナ禍の影響もあり、ストリーミングサービスで音楽を楽しむ風潮はますますアメリカでは加速している。ミュージシャンは作詞作曲して歌ってCDを出すよりも、出来上がったものをいかにコンテンツビジネスに乗せて、多媒体で流すかがビジネスとしては大事になってくる。常に売り時を考えなければいけないということだ。

一方で、ディランのファンはとても複雑な気持ちのようだ。かつてはプロテストソングの旗手として登場した人間が、政権交代で税率が変わることを見越して、自分の魂でもある楽曲を売り払ってしまい、ウェルス・マネジメント(資産プランニング)に走ることは、ファンとして納得できない面もあるからだ。がっかりした、とか、かつてのディランはどこにいったのかという書き込みも見られる。

また、CDが売れなくなった音楽産業がストリーミングビジネスで息を吹き返しているのを歓迎する傾向がある一方で、現実には超有名アーティストのみに資金が集中する状況を危惧する向きもある。

アメリカのリサーチ会社、エクスプレイン・ザ・マーケット社のガイ・ショーンCEOによれば、若い無名のアーティストは大物たちに席巻された業界でチャンスを掴むことができず、良い曲もその権利を叩き売って生活をしのぐという側面が見られると、業界の先行きを懸念している。

インターネットはどんな人にも等しくチャンスを与える媒体と思われてきたが、ネット媒体から降ってくる音楽は、メガヒットを出したセレブなミュージシャンばかりをさらに膨張させるという批判だ。

ボブ・ディランもデビューアルバムは5000枚しか売れなかった。いま5000人のファンを獲得したミュージシャンが、いつか音楽だけで食べていけるチャンスは来るのだろうか?

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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