陰謀説否定のビル・ゲイツ、ワクチン解説記事に学ぶ「黄金の4カ条」

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3. 点と点を結んで全体像を示せ


ゲイツは幅広い相手に向けて情報を発信するために、科学の全体像を示している。

「振り返ってみると、2020年の科学の進歩の速さには驚かされる」。記事のなかでゲイツはこう書く。

なぜか? 何がそんなに驚くことなのか? そこでゲイツは全体像を提示する。

「人類の歴史を見ても、今年の新型コロナウィルスへの対応ほど進行の速かった例はこれまでなかった。通常、ワクチンの開発には10年かかる。今回は1年もかからずに複数のワクチンが開発された」

ゲイツはまた、アストラゼネカのワクチン候補がmRNAワクチンとどう違うのかを紹介し、臨床試験の結果アストラゼネカ製ワクチンの有効性が平均70%であったことを伝えている(対するファイザーとモデルナのワクチンは94~95%)。

これは低い数字だろうか? ここでまた、ゲイツは全体像を示す。

「だが、70%は感染を止めるのに十分効果のある高い数字と言える。ジョンソン&ジョンソン製など似たアプローチを取るワクチンにも期待が持てる」

世界中にいきわたるには50から100億回分が必要となることについてはどうだろう? この数字は大きすぎるだろうか? 難しいだろうか? 

全体像がなければ数字だけがひとり歩きする。ここでもゲイツは全体像を示して次のように書いている。

「全世界のワクチンメーカーで生産されるワクチンの量は通常、年間60億弱だ。これにはインフルエンザワクチンや子供の定期接種用のワクチンなどが含まれる。つまり、他のワクチンを減らすことなく新型コロナウィルスのワクチンの必要量を生産するとなると、少なくとも通常の2倍、おそらくは3倍近い生産能力が必要になる」

統計数字だけで受け手が全体像をつかめると思ってはいけない。点と点を結ぶのだ。

4. 説明は他のことになぞらえて


ゲイツはもともと執筆や講演で、頻繁にアナロジー(類比、他の物事になぞらえること)を使うことで知られる。この記事のなかでもその例に漏れず、ゲイツは「セカンドソース契約」が生産の重荷を軽減するのに役立つだろうと述べている。

セカンドソース契約。私にはなじみのない言葉だが、ゲイツは簡潔にこう説明する。

「われわれ(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)は、富裕国のワクチンメーカーと、安全で高品質、低価格のワクチンを大量生産できる途上国のメーカーをペアにした」

ここからアナロジーが登場する。それもふたつだ。

「こういったセカンドソース契約は非常に珍しい。フォードがホンダに、アコードを作るための工場をひとつ提供するようなものだ。だが、問題の大きさと早急な解決を求められることを考え、多くの製薬会社がこのような新しいやり方で協力していくことが有益だと考えている。

これは、第二次世界大戦時にアメリカが自動車工場を戦車やトラックの工場に変えることで、驚異的な速度で生産能力を上げたのと似ている」

読者はセカンドソース契約について詳しく知る必要はない。だからゲイツは短い説明と単純な類推で全体像を見せたのだ。

科学者も教育者もリーダーも、わかりやすく、行動の指針になりやすい情報を伝える役割を果たす。世界が複雑さを増すなか、シンプルな説明は人々の混乱を防ぎ、情報を発信する側への信頼を高めてくれるはずだ。

翻訳・編集=寺下朋子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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