陰謀説否定のビル・ゲイツ、ワクチン解説記事に学ぶ「黄金の4カ条」

GettyImages

「Plandemic」と題された反ワクチンの陰謀論動画が2020年5月頃からSNSで800万回再生され、ビル・ゲイツが「人体にマイクロチップを埋め込み、世界の人々からのデータ収集のためにワクチンを利用しようとしている」というワクチン陰謀説が流布されたことは記憶にあたらしい。そして1月27日、ゲイツはこの陰謀説を改めて否定した。

実はゲイツはこれに先だつ昨年12月22日、自身のブログGates Notesに4000語の記事を投稿している。その記事でゲイツは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行についてわかっていること、ワクチンの作用のしかた、今後の展望などをわかりやすい明快な言葉で伝えた。

このゲイツの記事には、専門や立場を異にする人々とコミュニケーションを取ったり、自分の企画に投資を仰いだりする必要があるリーダーたちに貴重なヒントとなる4カ条が含まれている。以下分析してみよう。

1. 全体像から伝える、文字数はツイートぐらいで


ゲイツの付けた見出しは重要ポイントを的確に要約し、先を読みたいと読者に思わせる。

「科学の飛躍的進歩により2021年は2020年より良い年になるだろう」

英語でわずか52文字。ツイート可能な短さだ。これで読者の注意を引き、記事の大要を教えてくれる。

読者や聴講者などの受け手は、自分がこれから何を学べるのかを知りたがっているのだ。待たせてはいけない。

2. リーダビリティスコアは11で


ゲイツは記事内で、複雑な科学のことを一般人が理解できるように書いている。

ブログの記事のリーダビリティスコア(読みやすさ)は11。平均的な11年生(日本の高校2年生)が読める難易度だ。

注目すべきなのは、記事のなかで最も複雑な部分──mRNAワクチンの作用についての説明はさらに平易なスコア9の語彙で書かれていることだ。

ゲイツはワクチンについて読者に知ってもらうために、日常語を使い、難しい専門用語を避けている。

ウィルスの仕組みを知らない人にワクチンの説明をすることはできない。そのためゲイツは初歩的な話から始めている。まず、研究中のワクチンのほぼすべてが、「新型コロナウィルスの同じ部分を攻撃する……ウィルスからスパイク状に突起している蛋白質で、それが冠に似ていることが、コロナという名の由来だ」と説明する。

続いて、mRNAワクチン(ファイザー/ビオンテックとモデルナによる、米国内で最初に緊急認可を受けたワクチン)の働きの解説に移る。

ゲイツはこう書く。

「メッセンジャーRNAを使って体に指示を与え、独特のスパイク蛋白を作らせる。その後、体の免疫系が働いてスパイク蛋白を持つものすべて(新型コロナウィルスもそのひとつ)を攻撃する」

これだけだ。わずか2文でmRNAワクチンの作用を説明している。その次に、なぜこのワクチンが短期間に大量生産できるのか、なぜこのワクチンの開発が画期的な功績と言えるのかが説明される。

ゲイツが意図的に避けた言葉はどんなものなのか、見てみよう。 New England Journal of Medicine誌によると、ファイザーのワクチン(BNT162b2ワクチン)は「膜融合前の状態で安定化させた膜アンカー SARS-CoV-2 全長スパイク蛋白をコードし、脂質ナノ粒子を用いて製剤化したヌクレオシド修飾 RNA ワクチン」(訳者より:同誌日本語版より引用)である。

この解説で使われている専門用語はたったふたつ、RNAとスパイク蛋白だけだ。あとはわかりやすい言葉に書き換えられている。

ゲイツの説明以上の専門的な話はほとんどの読者が必要としていない。専門用語が増えれば混乱するだけだろう。受け手が日々の会話で用いる言葉を使うようにしよう。
次ページ > 統計数字だけで受け手が全体像をつかめると思ってはいけない

翻訳・編集=寺下朋子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事