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開催を危ぶむ声が高まる東京オリンピック・パラリンピック。1月下旬から国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会によって、改めて中止や再延期の可能性を否定し、開催に向けたメッセージも発信されているが、ネガティブな話題も相まって、腰が据わった議論や検討の成果がなかなか伝わってこない。

開催か、中止か──。

どのような決断が下されるにしても、一つでも多くの何かを遺すため、あえて開催の是非自体を直接的に問うのではなく、「開催ならば、どんな東京オリ・パラにするべきか」をともに考えることにした。

日本オリンピック委員会(JOC)や長野五輪招致委員会でIOCとの渉外を担い、独立後現在もオリンピックの理念を説き続ける、スポーツコンサルタントの春日良一氏に訊いた。


もし新型コロナウイルスが発生しなかったら、全く出会うことがなかった根本的な問いかけに我々は直面している。幸福のために、進歩と発展を目指し走り続けてきた我々のあり方に迫ってくる。

愛する人に会いに行けない。この世を去っていく人の手を握ることもできない。一人きりになることが求められているように思える。確かに本質的に人間は一人で死んでいくのだ。しかし、どこかで仲間と語り、恋人と抱擁することも求める。そのような幸せを確実にするために自然を支配し、より豊かになるための経済活動を続けてきた。

一方で、我々はその活動が地球環境に多大な損害を与えていることにも気付いている。しかし経済活動を優先する社会のあり方はなかなかその流れを止めることができなかった。そこに現れたコロナ。世界はロックダウンをし、何とか感染を抑えようと動き出した。その結果、前例のないレベルで大気汚染が改善した。武漢でも星空が見え、インドでは青空が戻った。水の都ベネチアの水路の透明度が増した。

経済活動と感染抑制の二律背反。何が本当の幸せなのか?を問う中で、その答えを出せるだろうか? 感染抑制のためには経済活動を止めなければならない。経済活動を止めれば豊かな生活は望めない。このパンデミックが治まるまで何とか折り合いをつけていくしかない混沌の中にいる。しかし、感染抑制をしながら活動できる方法を模索することの中から、幸せな日々を送るあり方を見つけることが出来るかもしれない。

私は、東京オリンピック2020の本年の開催がその鍵を握っていると思う。なぜか?

今、東京オリンピックが開催できると思っている人は日本にどのくらいいるのだろうか? 1月のNHKの世論調査を参照すると「開催すべき」が16%、「中止すべき」が38%、「さらに延期すべき」が39%である。昨年12月に比べて「開催すべき」が11ポイント減、「中止すべき」と「さらに延期すべき」はいずれも7ポイント前後増え、合わせると77%となった。しかし、一方で五輪の開催自体には55%が肯定的であるとも言える。

第三波と言われるコロナのパンデミック、緊急事態宣言の発令となり、日本を覆う空気は重い。その中で「開催すべき」が減少し、「中止すべき」と「延期すべき」が増えるのは自然と言える。


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コロナはスポーツに対して決定的にアンチテーゼである。身体と身体の関わりが本質であるスポーツは、コロナの感染を回避することに絶対値を置けば、その活動を停止することが一番の安全策である。極論すれば、コロナはスポーツを否定する。となれば、スポーツの祭典、オリンピックは当然否定される。

しかしここに感染と命、あるいは「死にいたる病」へのリスクというベクトルを付加すれば、違った時空が見えてくる。

コロナ禍でスポーツを行うことは、選手がコロナウイルスに感染して命を奪われる可能性、またはその選手が命の危険を回避できたとしても、他者に感染を広め、その被感染者の命を奪う可能性があるが、そのリスクを可能な限り回避しながらスポーツを行うことができれば、スポーツが培う身体能力の育成と開花、さらには免疫力の増長が可能となる。そして、観戦する人々のリスクを可能な限り回避できれば、彼らの感動を頂点まで高めることができる。それはスポーツを全否定しては得られることのない値である。

今、オリンピックを開催するか中止するかの議論で、日本社会が立ち往生しているように見えるのは、その論点が世論から評論に至るまで、オリンピックという一大イベント開催の実現可能性の是非論の枠内にあるからだ。国民に人気の高い高校野球、夏の甲子園大会もできなかった。それなのに世界最大規模のスポーツイベントはできるはずがないではないか。否々、大イベントだからこそやらなければ大変なことになるのではないか?

文=春日良一 編集=宇藤智子

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