いま改めて考える「聖火リレー」の意味と歴史


聖火リレーは開催国の人々がオリンピックをより身近に体験する機会として、IOCは重要なイベントと考えている。開催都市契約にも聖火リレーの要項が細かく規定されていて、大会を盛り上げる重要な道具であると定義している。そして、休戦を伝えるという根本的な意義を踏まえつつ、組織委員会に独自の色を付けることが許容されている。開催都市や開催国の歴史を世界中の人々が知る機会になる。だからこそ47都道府県も挙って聖火リレーを運営したかったのである。

平時であれば派手な装飾を施したコンボイカーに乗るDJの巧みなパフォーマンスが沿道を盛り上げる。沿道からも大きな声援が送られる。世界には各地の郷土色溢れる映像が映し出される。大会本番への期待が盛り上がり、まさにお祭り気分に包まれる。オリンピックが来るぞ!来るぞ!と。

さて、東京オリンピック2020の聖火リレーはいかなる想いを伝えるか?


太陽の塔をバックに走る、桂 文枝さん(Photo by Tokyo 2020)

4月14日、大阪では1130人のコロナ感染者が出た。聖火リレーは万博記念公園で行われた。観客もほとんどいない中、ランナーは走り続けていた。笑顔であった。静かな走りであった。

聖火ランナーの走り終えた感想もNHKのネットライブストリーミングで聞くことができる。

「聖火の思いを伝えたい」
「走っているトーチの重さはオリンピックの重さと感じた」
「困難な人に元気を与えたい」
「2分だが濃密な時間だった」

92歳のおばあさんは笑顔で言った。「完走できるだけ元気で嬉しい」。

人に注目されるのが苦手な中学生が母の勧めで応募してランナーとなった。「苦手を乗り越えられました。これからは大丈夫です。母に見せたかった」

ランナーの心には火が点っていた。コロナ禍であるが故の聖火リレーがあると思えた。それはオリンピック自身の禊を迫ってくる。過度な装飾も華美な演出も要らない。黙々と走る姿から聖火の言葉が聞こえてくるような気がする。その火を繋げていくこと自体に意味があると。

オリンピアからやってきた聖火を人と人とが繋げている。それは心と心が繋がっていくことだ。コロナは人と人とを分断する。最初は物理的に、やがて心理的にも。私はコロナが助長する分断する世界を聖火リレーが修復していく日々を見ている。

4月21日、聖火は愛媛に入った。「沿道の方は皆マスクをしています。目と目のコンタクトしかありません。でもその目が伝えてくることが希望になります」ランナーが口々に語るのは「応援のありがたさ」である。静かだが暖かい声援である。

聖火リレーを支えるスポンサーもコロナ禍ならではの応援


平和の灯火を伝える人への応援。それはまさにオリンピックスポンサーにも求められることである。オリンピックの本当のゴールはスポーツによる世界平和のはずだ。聖火リレーのスポンサーは、そのゴールへの道のりを応援するものだ。ランナーを先導するコンボイカーが出すのは大声ではなく、リレーを支える静かなる闘志である。

聖火リレーがスポンサーシップを得るようになったのは、1992年第25回バルセロナオリンピックだ。最初のスポンサーになったのが、コカ・コーラ。同社はオリンピックスポンサーとしても最古参だ。1928年大会からのワールドワイドパートナーを務めている。オリンピック運動を伝える術は心得ている。コロナ禍での静かな聖火に順応できるはずだ。当初批判された大声マスクなしのDJ演出は、速やかに修正されている。
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文=春日良一 編集=宇藤智子

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