ビジネス

2021.01.31

僕らが目指す「寄付からはじまる、いまよりちょっと、いい世界」

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家入:それはまた別の文脈があって。僕は資本主義の上に、個が中心となって支え合う「小さな経済圏」がいくつもできると思っています。寄付もその一つで、資本主義の上にどうやって実装するかを考えないといけない。

そのときにポイントになるのが「遊び」の要素。例えば寄付のソーシャルインパクトが投資の利回りのように表現されると、ゲームっぽくて面白いなと。こうした仕掛けをNPOの方に話しても「面白いけど、僕らの世界と違う」と拒絶されかねない。でも、今井さんはそこを超えられる人。トークンを発行したりLINE相談したり、新しいサービスをどんどん使うでしょ。NPOとスタートアップ、どちらの村にも属せてないんだよね(笑)。

今井:確かに(笑)。ただ、僕は、自分たちだけで動くことに違和感があって、10代の孤立を解決するために、ほかのNPOと協力して動いている。昨年はコロナ禍で寄付が集まりにくい状況になり、みんな活動の原資が少なくなり動くに動けなかった。NPOは企業や行政ができないところを課題解決していく存在だから、もっとNPO全体を応援できる仕組みがほしい。そう思っていたところに家入さんから話があって動き始めました。

:僕は寄付を投資のように見せることに反対でした。資本主義的な文脈に乗って投資対効果を測り始めると、見えざる問題とか新しい生きづらさみたいな課題に対応できないですから。もっといえば、僕は人間を機械化させてしまう合理的な思考と闘いたい。寄付に合理性をもち込むのは危険だと思っています。

ただ一方で、「新しい贈与論」のような、寄付について深く思考実験する活動だけだと、クローズドなまま。寄付のハードルを下げて広げていくには、やはり家入さんの発想も必要で。
 
そういう意味で、僕がsolioでこだわったのは、ジャンルを組み合わせるポートフォリオ型だということ。音楽にはロックやジャズ、クラシックなどジャンルがあり、「ロックも聞くし、ジャズもいい」と楽しめる。寄付もそれと同じようにポートフォリオを出せれば、多元的な価値をそのまま出せる。リターンの大小より、それを可視化したほうが面白いかなと。

家入:solioは利用者が寄付したジャンルを円グラフで表すんだよね。一人ひとりグラフのかたちが違って、自分だけのバッジのようになる。それをSNS上でシェアをしてもらい、共感の輪を広げる。

:あの円グラフは発明ですよね。グラフの形が「自分はこういうテーマに関心をもっている」という自己表現になる。逆に、いくら寄付したのかという額は出さないから、多く寄付したから偉いという特権意識は生まれにくい。

今井:グラフは、70以上ツイートされていますが、本当に一人ひとり違って、同じ形の人はほとんどいない。

:比率が自分と近い人がいたら気になるよね。そういう人とコミュニケーションが取れることができれば、もっと楽しいかも。

家入:いいね、やりましょう。人は「寄付しようよ」と口で促すだけだと行動変容しない。solioで仕掛けをつくって、「遊び感覚で乗っかっただけ」と言い訳を作ってあげると、もっと寄付が広がると思います。

今井:NPO側の反応もいい。これまで寄付したくても寄付先がわからなくてしていなかった層を、solioが確実に開拓してくれるだろうという期待を持ってくれている。 寄付先はもっと広げたいですよね。いま認定NPO法人と公益法人に限っていますが、認定を取っていなくてもいい団体はたくさんあるので。

ひとつ気になっているのは、ジャンルの格差。いまのところ、12のジャンルのうち「子どもの教育」「出産・子育て支援」が1位と2位。その他のジャンルと偏りがあるので、どこかで「ポートフォリオを見直しませんか」という問いかけをやってもいいですよね。
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文=村上 敬、写真=冨貴塚悠太

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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