しばらく前、英科学誌ネイチャーに掲載された『Model and manage the changing geopolitics of energy(変わりゆくエネルギーの地政学のモデル化と管理)』という記事では、この移行に伴う地政学的な意味合いを検証し、国際協力、技術破壊、相対する国益によって決定付けられる今後のシナリオを描いている。
理想的なシナリオでは、気候変動対策に関する世界的コンセンサスに基づく強固な国際協力が実現する。米国をパリ協定から脱退させたドナルド・トランプのような、いわゆる“汚いナショナリスト”はこのシナリオに対する最大の脅威となるが、ジョー・バイデン新大統領は気候危機への幅広い取り組みを公約として掲げている。
世界最大の経済大国である米国の方針転換は最高のニュースであることは間違いない。バイデン政権は具体的な政策や、今年主催する世界気候サミットで、この公約を実行することだろう。
一方で、人類の長年にわたる蛮行により自然が自力では自らを守れないほどまで傷つき、伝染病のパンデミックが引き起こされやすくなっており、今回の新型コロナウイルス流行をきっかけに各国政府に対して気候変動対策を求める社会的圧力が高まっている。
パリ協定では、気候変動への取り組みを支援するとともに、再生可能エネルギーへの移行に伴い石油業界が生き残りのためのダンピング(不当廉売)を行うことを防ぐため、主要20カ国・地域(G20)が年間1000億ドルを拠出する「緑の気候基金」が設立された。
同時に金融市場では、投資対象を石油・ガス関連企業からクリーン経済関連企業へと移行する動きが顕著になっている。2030年のフォーチュン500リストは、クリーンエネルギー関連企業や脱炭素化を全面に打ち出した企業で埋め尽くされるだろう。