インバウンドなき東京五輪、もし中止になったら影響は?
小林:政府が東京五輪を招致した大きな目的のひとつがインバウンドだったと言われています。
中島:招致の決まった2013年に「2020年までに2000万人」と掲げた目標はわずか3年、2016年には達成し、2018年には3000万人を突破しました。そこまでは順調でした。莫大な予算を投下した成果がはっきりと見えていました。
小林:けれど、コロナ禍で一変しました。インバウンドという見返りがなくなった上に、コロナ対策に960億円の追加コストがかかることに批判の声があります。これは経済学的にはどうなのでしょう?
中島:経済学の立場から言えば、すでに投入した金額はなかったものと考えます。コストの回収は考慮しないのが原則です。問題はこれからです。これからの収支をきちんと描けるか。
中止になった場合の損失を指摘する人もたくさんいますが、私は中止による経済的損失はそれほど大きくないと予想しています。
なぜなら、すでに「中止されるかもしれない」と多くの人が予想して、予め準備しているからです。消費者が予測できている場合、中止のショックはそれほど大きくありません。株価の変動も今回はないと見ています。個人の消費でいえば、もしオリンピックが中止になったら、オリンピックで使おうと思っていた予算を他に回す。つまり、全体の消費にはあまり変わりがないのです。
中島隆信◎慶應義塾大学商学部教授。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。商学博士。2001年より現職。2007年8月~2009年3月、内閣府大臣官房統計委員会担当室長を務める。専門は応用経済学。『新版 障害者の経済学』『高校野球の経済学』『大相撲の経済学』(東洋経済新報社)など著書多数。
小林信也◎作家・スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。慶応大学法学部法律学科卒。在学中から執筆活動を始め、「ポパイ」「ナンバー」編集部を経てスポーツライターとして独立。テレビ・ラジオへの出演、また選手育成や大会プロデュースも行うなど幅広く活躍中。主な著書に『子どもにスポーツをさせるな』『高校野球が危ない』『カツラーの秘密』など。
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