米史上2人目の「カトリック系大統領」誕生から考える、現代アメリカの宗教観

現代アメリカの宗教観、政治と宗教の関係性とは(Getty Images)

1月20日、民主党のジョー・バイデン氏が第46代アメリカ合衆国大統領に就任した。ジョン・F・ケネディに次ぐ米史上2人目のカトリックの大統領の誕生だ。

共和党から出馬し、福音派という岩盤支持層に支えられ、2016年、2020年と大量の票を獲得したトランプ前大統領のように、アメリカにおいて特定の宗派からの支持を集めることは政局の重要なポイントとなる。

特定の宗派を支持基盤とせず、米国では主流とは言えないカトリックに属するバイデン氏が当選を果たしたのは、アメリカのどのような背景によるとみられるのだろうか。

社会学者で大学院大学至善館教授の橋爪大三郎に、現代アメリカと宗教の関係について聞いた。

政治と宗教の距離感


そもそもアメリカでは、なぜ「宗教票」が政治に大きな影響を与えるのだろうか。まず、そんな疑問をぶつけると、橋爪はこう指摘した。

「合衆国憲法では政教分離がきちんと定められていて、もともと選挙に宗教が影響するのはあってはいけないことになっていた。『宗教票』『福音派』みたいなものが選挙に影響するようになったのは、最近のことです」

かつて建国の中心となったアメリカ東部では州ごと、さらには町ごとに異なる宗派が信仰されていた。そのため合衆国憲法は、アメリカは宗教と分離した世俗の国家だと謳っている。

しかし1977年、カーター大統領の頃から「宗教票」なるものが出現する。この票を投じたのは、福音派の人々だった。

福音派とは保守的なプロテスタントのことを指し、その流れは1960年代に盛んだった公民権運動の後から顕著になったと、橋爪は解説する。

「公民権運動の時代には、おおっぴらには口にしないまでも、黒人らマイノリティの人々の声が大きくなることを面白く思わない人が一定数存在していました。こうした人々は次第に白人ではない人々や移民によって国が脅かされ、キリスト教の原則がないがしろにされていると考えるようになる」

こうした考えと聖書中心主義とが結びつき、だんだんと大きな流れになったのが福音派だ。

福音派は、「古き良きアメリカを取り戻そう」「ボーン・アゲイン」を公言する民主党のカーターを支持した。その後は共和党の候補に票が集まりはじめ、以後アメリカにおける政治と宗教の距離は縮まっていくこととなる。

混迷を極めた大統領選の実態


では今回の選挙において、福音派という大きな支持基盤を有するトランプをバイデンが打ち負かしたことにはどのような背景があったのだろうか。

要因のひとつとして、国民のトランプ氏への見方の変化がある。2016年の選挙では、トランプ氏は泡沫候補だった。不動産王として名を馳せ、リアリティショーの司会を務めていた人物が、まさか本当に大統領になるとは誰しも予想しなかった。

「そうして面白半分でトランプに票を投じていた人々が前回の選挙では一定数いたのではないか」と橋爪は言う。そうした人々の票が4年を経て、今回の選挙では「これでよいのか」と考え直したのが、バイデンの得票に影響したと考えることができるという。
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文=河村優

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