着実に支持者を集め、2020年の選挙では「本物の候補」となったトランプ氏。この変化に危機感を覚える人がいる一方で、トランプ氏の再選を強く望む人々もいた。
「この社会は何かが間違っている、自分が評価されないのは不当だ」こうした不満感を抱える人々の目には、トランプ氏が掲げた「アメリカ・ファースト」のスローガンは、わが意を得たりと映った。コロナショック前には減税を進め、オイルシェル産業を加速させ、失業率を3%台まで引き下げるなど、彼の政策は一時それなりに効果を上げたことも、支持を後押しした。しかし国際社会との協調を顧みない姿勢が、多くの局面で分断と孤立をまねいたことは言うまでもない。
トランプ氏のソーシャルメディアでの発信も、こうした層には響いた。橋爪はこう語る。
「彼らにとってはスマホで何でも見られる時代に、テレビなどの主流メディアになぜわざわざお金を払ってまでアクセスするのか、疑問なのです。そこでいわゆる良識ある情報ではなく、自分にとって心地がいい情報にアクセスするようになる。そうして心地いい発言だけに触れているうちに、だんだん社会が分断されて、極端なグループが形成されてしまうのです」
2016年の選挙戦でのトランプ氏と支持者たち(Getty Images)
アイデンティティとしての宗教
ジョン・F・ケネディが1960年の選挙を制し、米史上初のカトリックの大統領が誕生したことは当時大きく取り上げられた。しかし、バイデン氏のカトリック信仰についてはそれほど大きく取り上げられていない。現代では選挙における候補者の信仰は大きな関心事項ではなくなったのだろうか。
その答えは、イエスともノーとも言い切れない。
「例えばテッド・クルーズやマルコ・ルビオといった共和党の有力議員は、もともとカトリック系のはずですが、プロテスタントに改宗しています。こうしたことを見ると、政界でのし上がっていくためにはやっぱりカトリックであると非常に不利なんでしょうね。
だけど、ケネディもバイデンも民主党でしょ。民主党には、宗教とさばけた距離の取り方をしている人々が多い。そういう人々からすると、バックグラウンドがカトリックでもかまわないと、ストライクゾーンが広くなる。そこでバイデン氏の信仰はそんなに話題にならないんです。
あとは、同じプロテスタントでも、人工妊娠中絶に賛成だったり反対だったり、教会や宗派ごとに意見が違って一筋縄ではいかない。どの宗派ならどの党、どの候補に投票、とひとくくりにできるものでもないのです」
もうひとつ特筆すべきこととして、「宗教はアイデンティティを表すものである」というアメリカならではの宗教観がある。