米史上2人目の「カトリック系大統領」誕生から考える、現代アメリカの宗教観

現代アメリカの宗教観、政治と宗教の関係性とは(Getty Images)


「バイデン政権で公職につくブティジェッジ氏は、ゲイであることをカミングアウトしたことに関係して教会を変えているんです。こうした事例からもわかるように、アメリカでは誰もが個人としてのアイデンティティの証として、教会や政治的立場を選ぶわけですね。宗教は自分の生き方や日常生活と結びついているのです」

信仰はアイデンティティを表すものであり、自ら選択するものであるという考え方がアメリカにはある。そのため社会が多様化するにつれて、個人や議員の信仰にも多様性が生まれ、どんな信仰の人でも議員になっていいではないかとする流れが、ケネディが就任した時代と比較すると強まっているのではないか。

「宗教はアイデンティティを表すものである」。だからこそ、アメリカの若者は自らの信仰について成長と共に悩み考えるという。

家族や親族に連れられて教会にいく年齢を過ぎると、これまで通っていた教会が自分の生き方に合っているのかと悩む。悩んだ結果、宗教自体から離れる者も全体としては増え続けているが、親元を離れて進学することを機に、友達作りの一環として大学の近くの教会に行ったり、結婚を機に改宗したり、とやはり宗教に戻る人々も多い。ただの無関心ということはない。これが日本との大きな違いだと、橋爪は語る。

ところで、アメリカにおけるカトリック信者の割合は、人口の25%ほどといわれている。プロテスタントの55%と比べるとマイノリティーだが、近年信者が急増しており、単一の宗派としては最大だ。

アメリカでカトリック信者が増えているのは、ヒスパニック系の移民が増えていることが要因だ。

移民に対して強い規制をかけたトランプ前政権に対し、バイデン新政権は規制の緩和を示している。移民が増加することに対してアメリカ国民はどのように反応するのだろうか。

これに対して橋爪はこう語った。

「不思議に思えて、でも考えてみれば当然の現象なんだけど、メキシコからの移民に反対しているのはヒスパニックの人々なんです。なぜなら競合が増えてしまうから。新しく移民が入ってくることによってこれまで築いた職や賃金が不安定になってしまう。だから白人たちがヒスパニックの移民を排斥しているという単純な構図ではない」

人種や宗教観、歴史的背景など多くの要素が複雑に絡み合い、ひとつひとつに根深い事情があるアメリカ社会。バイデン新政権は、今後どのように舵取りしていくべきだろうか。後編では、トランプ前政権下で深まった分断のひずみと、バイデン新政権に求められる姿勢を橋爪が語る。




橋爪大三郎◎1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『アメリカ』『中国vsアメリカ』(いずれも河出新書)など著書多数。

文=河村優

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