ユーロスターは、英仏海峡トンネルを通り、英ロンドンと仏パリ、ベルギーのブリュッセルを結ぶ列車を運行している。英ロイター通信によると、ユーロスターのフランス人幹部から同社の苦境について伝えられたフランス政府は、救済に乗り出した。
ユーロスターの利用客は昨年3月から95%減少。過去のピーク時には1時間に2本だったパリ発ロンドン行き列車の運行本数は現在、1日1本のみだ。ニュースサイト「ザ・ローカル」によると、ユーロスターの主要株主であるフランス国鉄(SNCF)の幹部は「ユーロスターのことが非常に気がかりだ」と表明。「会社は危機的な状況にある。非常に危機的とさえ言える」と述べた。
ユーロスター株の多くを保有するフランスは、同社に既に2億ユーロ(約250億円)の支援を行っている。英紙テレグラフによると、フランスのジャンバティスト・ジェバリ交通担当相は、グラント・シャップス英運輸相と同社救済について協議したと述べた。
ユーロスターはロンドンに本社を置いているが、英仏政府が同社をそれぞれ相手国の企業だと考えていることが支援金確保での障壁の一つとなっている。
フランス国鉄は同社の株式の55%を保有。残る株式は、カナダのケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)が30%、英ファンドのヘルメス・インフラストラクチャー(Hermes Infrastructure)が10%、ベルギー国鉄(SNCB)が5%を所有している。
英国の保有株式は以前、今より多かったが、デービッド・キャメロン政権が2015年、7億5000万ポンド(約1100億円)の株式をフランスに売却した。英国では、同社を救済すべきなのは納税者ではなく株主だとの声が上がっている。
一方で、ユーロスターのジャック・ダマス最高経営責任者(CEO)は英紙インディペンデントでの論説で、欧州連合(EU)を離脱した英国にとって同社は以前にも増して重要な存在になると主張。ユーロスターの運行続行には環境面で大きなメリットがあることも強調した。ユーロスターの乗客1人当たりの炭素排出量は、旅客機で同じ距離を移動する場合と比べて最大90%低い。ユーロスターがなくなれば、人々が航空機を使わざるを得なくなることが懸念されている。
英国では、ユーロスターはフランチャイズの鉄道運営企業ではないため、政府による鉄道会社や航空会社向けの支援策の対象にはならない。米紙ニューヨーク・タイムズは、たとえ新型コロナウイルスの予防接種が進んでも、鉄道利用は2023年、あるいは24年まで回復しないと予想されている。
テレグラフ紙は情報筋の話として、同社が数カ月、あるいは数週間で資金を使い果たす恐れがあると報じている。