そんな龍崎氏が語る、経営者の素養、事業創造の秘訣とは。(3話中、第1話)
*情報は2019年9月現在のものです。
──龍崎さんが考える、経営者にとって重要な素養を3つ挙げるとすると何でしょうか?
「経営者はロマン4割。現実6割。」という言葉をよく使うのですが、この一言に言いたいことの3つが含まれているように思います。
私が考える経営者にとって重要な素養は、1つめが「風呂敷を広げる力」、2つめが「ディテールへの拘り」、3つめが「自分の無力さを知る」ことです。
──1つめの「風呂敷を広げる力」について詳しくお聞かせください。
「風呂敷を広げる力」とは、他の人が想像できないような方向性に会社の可能性を広げていく力です。「ロマン4割」の部分ですね。
私がこの重要性を感じたきっかけは、富良野で創業した頃にひたすら現場仕事をしていた時のことでした。毎日接客や電話対応などに追われていると、視座が下がって目の前のことしか見えなくなり、それをやるだけで達成感を感じている自分に気づいたのです。
しかし経営者がその状態では、会社の発展可能性に上限ができてしまいます。いかに周囲が「ありえない!」と言うくらいの大きな目標を掲げ、メンバーに信じてもらえるか。それが経営者の果たすべき役割だと感じました。
そこからは、私は現場仕事から意識的に一定の距離をとるようになりました。
創業から3年で5軒のホテルを運営できているのも、目の前のことに満足するのではなく、大きな「風呂敷を広げた」からだと思っています。
──「現実6割」の部分が「ディテールへの拘り」でしょうか。
「大きな風呂敷」を広げたあとに、その風呂敷を畳んで実現していくところまでが経営者の仕事だと思っています。なので、先ほどの話と矛盾しているようにも見えますが、「ディテールへの拘り」は大切です。
例えば、我々はインスタグラムでの情報発信に力を入れていますが、写真や文面などを今も私自身がチェックして、指示を出しています。お客様へのサービスやホテルの清掃などについても、普通の人ならば気にならないレベルのところまで目を向けています。
「ディテールへの拘り」を大切にしていくことで、細部にまでビジョンが宿るサービスを提供できますし、組織そのものをグリップしていくことができると思っています。
──そのように思われる原体験が何かあったのでしょうか?
我々の会社は今でこそ「ブランド体験にこだわっている」というイメージを持っていただいていますが、創業当初は会社にその意識は浸透しておらず、空間やサービスの質も不十分でした。
実際、私自身も、メンバーに気を遣ってしまって、改善して欲しいところを指摘できなかったことが多々あり、そうした一つ一つの小さな妥協が、結果として、全体的に中途半端な状態を生み出していたのです。
それに対して、メンバーが気持ちよく働けるよう配慮しつつも、細かい部分まで拘るよう、時間をかけて意識を変えていきました。
結果、「壁に耳あり障子に目あり」という状態の組織を作り上げることができ、質の高いサービスを提供できるようになりました。それによって、お客さんのブランド体験価値が高まり、それがメンバーの誇りにつながるという好循環も生まれました。