「脱成長コミュニズム」社会へ、危機の瞬間のチャンス到来

斎藤幸平


労働時間が大幅に減る結果、経済はスローダウンし、スケールダウンしますが、他方で生活自体はコモンが増えることでより安定する。大勢の人たちにとってはむしろ生活レベルが改善するでしょう。ストレスや不安、競争からも解放されるようになり、趣味や家族、友人との時間という別の豊かさが手に入る。だから、そんなに恐れる必要はありません。

経済効率や経済成長だけを豊かさや進歩と結びつけると、脱成長と聞いて「経済どうするの?」と心配になる。しかし、それをコモンにして安定させていくことで、経済成長以外のものの豊かさを回復させ、我々の別のかたちの発展や豊かさ、成長が追求できるようになるといい。

──新型コロナウイルス危機で、エッセンシャルワーカーの大切さにスポットライトが当たりましたが、実際はITなどのコロナの影響を受けにくい企業が大きく株価や業績を伸ばしました。

資本主義のおかしさがはっきりしたと思います。株価は我々を犠牲にすることで成り立っているということが、誰の目にも明確になりました。

なぜ『エッセンシャル・ワーク』がきちんとした対価を得られず、一部の企業や人々が暴利を貪るのか。そういう世の中の不合理とか不条理とかバカバカしさというのが、もう否定できないほど明らかになってきたという意味では、危機の瞬間のチャンスと言えるでしょう。


さいとう・こうへい◎1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』(堀之内出版)でドイッチャー記念賞を日本人初で受賞。近著に『人新世の「資本論」』(集英社新書)。

インタビュー=フォーブス ジャパン編集部 ポートレートイラスト=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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