「脱成長コミュニズム」社会へ、危機の瞬間のチャンス到来

斎藤幸平

従来の経済指標では測れない新しい豊かさとは何か。資本主義や民主主義を問う声が増すなかで、人々が共感できる「新しい価値」が重要になってくる。

1月25日発売のフォーブス ジャパン3月号では「新しい価値」の設計者たちをテーマに、建築家、映画監督、音楽プロデューサー、大学教員、教育やシビックテックのNPO代表、官僚など、さまざまな分野の25人をピックアップ。彼らの「新しい価値」観とそれを社会実装する取り組みを紹介。本誌掲載記事から一部お届けする。

気鋭の経済思想史家、斎藤幸平が語る、資本主義経済の先の「脱成長コミュニズム」とは。世の中の不合理や不条理が明らかになったいま、「危機の瞬間」がチャンスに変わる。


気鋭のマルクス研究者である斎藤幸平の『人新世の「資本論」』が10万部超えのヒットを続けている。成長を前提とした資本主義的な枠組みでは環境保全は不可能だと指摘し、「脱成長コミュニズム」の道しか人類にはないと説く同著。一見、過激に聞こえる主張がなぜ多くのビジネスパーソンの心に響くのか。「新しい時代の価値観」を提示する斎藤に話を聞いた。

──なぜ我々は「脱成長」を目指さなくてはならないのでしょうか。

資本主義のもとでは、環境への負荷や二酸化炭素の排出量をゼロにしていくというのは、やはりどう考えても不可能だからです。

脱炭素化に残された時間は、2050年までのわずか30年ほどです。テクノロジーの進歩による効率化に希望を託すのは現実逃避です。資本主義は経済成長をし続けるシステムですが、経済成長のなかには経済規模を大きくし、資源やエネルギー使用量を増やすことが含まれている。経済規模が大きくなっていくことと効率化ということの間に根本的な矛盾が生じるのです。

気候危機を利用してさらなる経済成長を目指すのではなく、気候危機を起こした原因が経済成長であるということを自覚しなくてはなりません。すでに先進国の経済はこれほど発展しているにもかかわらず、ますます人々を労働に駆り立てて、さらなる消費に駆り立てています。それこそが気候危機の原因です。常に消費を煽る資本主義的な価値観を抜本的に見直さなければなりません。

資本主義は構造的に、安い労働力、特に途上国のさまざまな資源を徹底的に収奪して、先進国の人々のために快適なものをつくり出し、経済的・環境的コストを外部化します。本来、気候危機は、資本主義が不可避に生み出す構造的格差を、抜本的に直していかないといけない、という警告なのです。
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インタビュー=フォーブス ジャパン編集部 ポートレートイラスト=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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