米空港で誰にも気付かれず3カ月生活できたのはなぜ? 警備専門家が考察

オヘア国際空港にて(Scott Olson / by Getty Images)

米シカゴのオヘア国際空港で今月、立ち入り制限区域に3カ月もの間隠れていた男が見つかり、不法侵入と窃盗の罪で起訴された。

この男はカリフォルニア州在住のアディティア・シン被告(36)。イリノイ州クック郡の検察が17日の保釈審理で明らかにしたところによると、新型コロナウイルスの流行中に飛行機に搭乗することを恐れていた。シン被告は、空港の運営管理職員が前日に紛失を届け出ていた身分証のバッジを見つけたことで、旅客が立ち入れない区域に入り、3カ月にわたり警備の目をかいくぐることができたとされる。

シン被告はロンドン大学経済学部を卒業し、オクラホマ州立大学で修士号を取得。2019年からはロサンゼルス地域に居住している。友人によると、シン被告は「優しい」人柄で、ホームレス支援のためよくボランティア活動をしていた。シンはビザ(査証)が切れる期限が迫っていたため、インドに向かう途中だった。

米国でも特に利用客が多いオヘア空港で、なぜこれほど大きな警備の不備が起き得たのかは現在もはっきりしない。

この出来事を2004年公開のトム・ハンクス主演映画『ターミナル』になぞらえる声も多く上がったが、同作のモデルとなったイラン難民の男性はパスポートを持たなかったためにパリのシャルル・ド・ゴール空港に18年間足止めされており、今回とは事情が異なる。

空港運営の分野で30年の経験を持つベテランで、デンバー国際空港の元警備部門次長であるメトロポリタン州立大学デンバー校のジェフ・プライス教授(航空宇宙科学)は「空港の警備を3カ月もの間かわせたのは驚くべきことだ」と語る。「これほど長期にわたりこの状態を維持するためには、積極的に警備を避けなければならなかったはずだ」とした上で、いくつもの人的ミスが重なったことが背景にあったとの見解を示した。

プライスによると、シン被告が入手したバッジを使えば、「おそらく空港の滑走路と誘導路を除いたエプロン区域はほぼどこでも入れたはずだ」と指摘した。紛失されたバッジは、システムから削除され、制限区域へのドアを開けるために使えないようにする決まりとなっている。シカゴ航空局(CDA)によると、このバッジは即座に無効化されていた。

つまり、バッジはシン被告が入手した際にはすでに無効化されており、これを使って立ち入り禁止区域に入ろうとしていたならば、「指令センターで警報が鳴り、警察が出動していたはずだ」とプライスは述べている。
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編集=遠藤宗生

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