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コロナ禍の影響で、アカデミー賞の対象作品が配信作品にまで拡大されたことは、前回のコラムでも触れた。映画館での上映を予定していたものの、劇場の閉鎖などにより配信のみで公開せざるをえなかった作品も対象にするという、今回限りの暫定措置だ。

昨年の全米の劇場公開作品数は、前年から半減(約450本)した。特に製作費をかけた有力作品は軒並み公開延期となり、これらの事情から、3月15日(現地時間)に発表されるノミネートでは、例年以上に配信のネットフリックス作品が選ばれる可能性が高いと言われている。

そんななか、今年はネットフリックスだけでなく、ライバルであるアマゾン・スタジオ(アマゾンのテレビ番組や映画の制作・配信を中心とする部門)からも、ノミネートが有力な話題作が配信された。女優のレジーナ・キングの映画初監督作品「あの夜、マイアミで」(原題:One Night in Miami)だ。

4人のレジェンドが集った伝説の夜


「あの夜、マイアミで」は、1964年2月25日、フロリダ州のマイアミビーチ・コンベンションセンターで、カシアス・クレイ(後のモハメド・アリ、以降「アリ」)が世界ヘビー級王者に輝いた「夜」の出来事を描いている。

とは言っても、物語の主役はチャンピオンとなったアリではなく、彼の勝利を祝うために集まった4人。マルコムX、サム・クック、ジム・ブラウン、そしてアリ自身だ。英語版の予告編では、この4人を「4 LEGENDS」と表現している。つまりアメリカ人にとっては「伝説」でもある4人が主役なのだ。

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左からサム・クック(レスリー・オドム・Jr)、モハメド・アリ(イーライ・ゴリー)、マルコムX(キングスリー・ベン=アディル)、ジム・ブラウン(オルディス・ホッジ)Courtesy of Amazon Studios Amazon Prime Videoにて独占配信中

彼らを簡単に紹介しておくと、マルコムXは黒人解放運動の激烈な闘士。白人を敵視する言動は、時に大きな波紋を呼んだ。スパイク・リー監督の映画(「マルコムX」、1992年)で知る人も多いかもしれない。

サム・クックはR&Bの歌手。自ら音楽出版社もつくり、著作権を自身で管理、公民権運動にも積極的に関わった。ローリング・ストーン誌が選んだ歴史上最も偉大な100人のシンガーでも、第4位となっている。

ジム・ブラウンに関しては、日本ではあまり馴染みのない人も多いかもしれない。アメリカではアメリカンフットボールの名選手として数々の記録を樹立、歴代の最も偉大な選手にも選ばれている。

カシアス・クレイことモハメド・アリは、4人のなかではいちばん有名かもしれない。徴兵拒否でタイトルを剥奪されながらも、プロボクサーとして3度の世界チャンピオンとなり、その後、病魔に見舞われながらも、1996年のアトランタ五輪では聖火を灯す最終ランナーをつとめた姿を記憶している人も多いだろう。

そのアリが初めて世界チャンピオンを奪取した夜に、この4人の「レジェンド」が勝利を祝うために、マルコムXが宿泊するモーテルの一室に集まる。これだけでもなかなか興味がそそられるシチュエーションだ。

しかし、マルコムの部屋には酒や豪華な食事はなく、冷蔵庫に入っているのはバニラアイスクリームのみ。そこから4人の会話は、自らのアフリカ系アメリカ人としての立ち位置をめぐる、激しい議論へと発展していく。

文=稲垣伸寿

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