スマニュー鈴木健が大統領選挙で見た「新たな分断と希望」

スマートニュース創業者の鈴木健


「メディアにしっかり向き合おうとする姿勢をもち続けたい。うまく両サイドの意見に触れていたいと思う。今のアメリカは本当に大きく分断されていて、両サイドの人たちがまったく違うことを言うからね」
 
こうした声を聞けば確かにアプリの機能として、リリースした意味は大きかったのだろうと思う。テクノロジーで開いてしまった分断を、テクノロジーで埋めようとする鈴木たちの挑戦は、意義深いものがある。新しい価値を提示する取り組みと評価することもできるだろう。しかし、本当にそれで分断を乗り越えたと言えるのか。一方で現実の課題はテクノロジーの先を走っている。
 
20年7月、米『ハーパーズ』誌は、「正義と開かれた議論のための公開書簡」を公式サイト上に発表した。自由な議論を脅かすのは、政府や極端な右派勢力だけではなく、自分たちが信じる正義にしか賛成しない言論がリベラル勢力の内部にもあるというものだ。
 
民主主義をより健全に機能させるためにテクノロジーが存在している―。これが鈴木の一貫した主張だ。分断を超えていくためには、もっと別の視点も必要なのではないか。

「その通りでしょうね。民主主義の対話は、常に自分が間違っているかもしれない、将来は主張が変わるかもしれない、とオープンにすることで成立します。自分が絶対に正義であると主張する人が増えていることは間違いないでしょう。しかし、全員ではない。何もなければどちらかの陣営に組み込まれたかもしれないけど、スマートニュースがあることで、両方の意見を読もうとする。僕はそこに可能性を感じています」
 
2021年、日本では衆議院議員総選挙がある。アメリカで新機能に挑戦したスマートニュースは、日本ではどうするのか。「新しい価値」を提示する、新サービスは打ち出されるのか。

「日本とアメリカでは状況が違うので、そのままということはないでしょう。僕が何かやれという会社ではありません。きっと社員からよいアイデアが上がってきますよ」
 
具体的な内容を……と聞くのはやめた。大切なのは、言葉ではない。ここから先、出てくるかもしれない新サービスにこそ価値観が示される。今は、それを楽しみに待っておきたい。


鈴木 健◎スマートニュース代表取締役会長兼社長CEO(最高経営責任者)。1975年生まれ。2012年にスマホ向けニュースアプリを運営するスマートニュースを共同創業。著書に『なめらかな社会とその敵』がある。

文=石戸 諭

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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