1月25日発売のフォーブス ジャパン3月号では「新しい価値」の設計者たちをテーマに、建築家、映画監督、音楽プロデューサー、大学教員、教育やシビックテックのNPO代表、官僚など、さまざまな分野の25人をピックアップ。彼らの「新しい価値」観とそれを社会実装する取り組みを紹介。本誌掲載記事から一部お届けする。
20年は、これまでよりさらに「分断」という言葉が流行した年になった。新型コロナウイルス、そして大統領選に揺れたアメリカ市場で確かな存在感を示す、日本発のニュースアプリがある。スマートニュースだ。
創業者にしてCEOを務める鈴木健もアメリカに飛んだ。20年10月中旬から11月中旬まで約1カ月、アメリカに滞在し、共和党と民主党の支持率が伯仲していた激戦州を中心に見て回ったという。鈴木の目にはどう映ったのか。
「今回の大統領選挙で印象に残ったのは、トランプ陣営がマイノリティにうまく働きかけていたことです。よく言われるような白人中間層の取り込みだけでなく、前回以上に本気でマイノリティが応援している印象を持ちました。つまり、保守派もまた多様であるということです。日本から見ると、保守派の多様性というのはなかなか見えてこない。今回の収穫です」
リベラルも保守派も多様であるということは、アメリカ全体が多様であるということ。それは、正の側面を強調すれば、多様性によるダイナミズムが生まれやすく、負の側面を見れば、分断の芽があらゆるところにあることを意味する。大統領選後に起きた「不正選挙」論はその一側面だろう。トランプとその支持者たちは「選挙に負けていない」と、より極端な陰謀論を振りまき、日本も含め世界中にそれを支持する人々が出現した。
「陰謀論自体は昔からありました。検証は必要ですが、直感的にはより広がりやすい状況になっていると思う」
新型コロナ禍もあいまって、極化した人々は、さらに同じ論調で固まる傾向を強めているように見える。インターネットの弱点と指摘されてきたフィルターバブルを克服するには、どうしたらいいのか。一つの試みとして、スマートニュースは2019年9月に、「News From All Sides」機能(アプリを操作することで、リベラル派、保守派、双方の観点から編集されたニュースを表示する機能)をアメリカ版でリリースした。その手応えはどうだったのか。
「街中でユーザーにインタビューしたものがあるので見てください」と鈴木は動画を再生した。数人のインタビューの中で、印象に残った一人の青年がいた。彼の家族は保守的な人ばかりで普段はFoxニュース(保守派)を見ている、一方で友人はリベラルが多いという。彼は異なる意見に触れることは大切だと思うか、という鈴木の問いに対して、こう答えていた。