ビジネス

2021.01.27

コロナ禍で売上3倍 「売れないエシカル」への挑戦状

従来の経済指標では測れない新しい豊かさとは何か。資本主義や民主主義を問う声が増すなかで、人々が共感できる「新しい価値」が重要になってくる。

1月25日発売のフォーブス ジャパン3月号では「新しい価値」の設計者たちをテーマに、建築家、映画監督、音楽プロデューサー、大学教員、教育やシビックテックのNPO代表、官僚など、さまざまな分野の25人をピックアップ。彼らの「新しい価値」観とそれを社会実装する取り組みを紹介。本誌掲載記事から一部お届けする。

人の欲求に寄り添うという意味で社会貢献もビジネスも本質は同じ。営利企業でアパレルブランドを展開し、収益をNPOに回す「循環型ビジネスモデル」が切り開く未来とは。


筒型のバスケットにエコファーの持ち手。内側から覗くのは色鮮やかな柄の巾着型ポーチ。斬新な素材の組み合わせとモード感あふれるデザインに、思わず足を止めたくなる。ハイブランドやポップカルチャー系の店舗が並ぶ東京・渋谷の「RAYARD MIYASHITA PARK」にあるアパレルブランドCLOUDYの店頭には、そんなバッグや小物が所狭しと並んでいる。

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渋谷「RAYARD MIYASHITAPARK」内にあるポップアップ様式の常設店舗。ブランドのキーカラーの黄色が目を引く。

「おしゃれ」「かわいい」。そう言って手に取る消費者の多くは、これらの商品を買うことがガーナの人々の支援につながるとは想像もしていないだろう。店舗にはアフリカの写真も、エシカルやフェアトレードを謳う商品にありがちな「いいことをしているから買ってください」と支援を呼びかけるメッセージもない。人々の善意に訴えるのではなく、「欲しい」と思わせる商品力でアフリカを支える。これこそが、CLOUDYを率いるDOYA社長・銅冶勇人の狙いだ。

CLOUDYは、ファッションを通じてアフリカの課題解決に取り組むブランドだ。2015年にゴールドマン・サックス証券出身の銅冶が立ち上げた。

「日本にはまだ、社会貢献に関心がない人のほうが圧倒的に多いです。マーケットのパイは限定的と言わざるをえません。だからこそ、まずはアパレルブランドとして商品を気に入っていただき、買っていただき、その後に『社会的にもいい活動をしているんだ』と気づいていただくことでファンを増やす。このやり方のほうが数字をつくっていけるし、支援の継続性を高めることにつながります」

アパレル業界で考えれば普通のことが、「途上国支援」という冠がついた時点で置き去りにされる。そのことに銅冶は疑問を投げかける。

初めてのポップアップストアを伊勢丹新宿店のモード服売り場に出したのも、セールや安売りをしないのも、トレンドを反映させたデザインにこだわり「アフリカらしさ」よりも日常への取り入れやすさを重視するのも、すべてビジネス上の計算があってこそだ。
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文=瀬戸久美子 写真=平岩亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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