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2021.01.26 17:00

NYから土佐へ、農業昆虫学を捨てて見つけた「偶然性の教育」

NPO法人SOMA代表理事 瀬戸昌宣

従来の経済指標では測れない新しい豊かさとは何か。資本主義や民主主義を問う声が増すなかで、人々が共感できる「新しい価値」が重要になってくる。

1月25日発売のフォーブス ジャパン3月号では「新しい価値」の設計者たちをテーマに、建築家、映画監督、音楽プロデューサー、大学教員、教育やシビックテックのNPO代表、官僚など、さまざまな分野の25人をピックアップ。彼らの「新しい価値」観とそれを社会実装する取り組みを紹介。本誌掲載記事から一部お届けする。

コーネル大学で10年間研究者として働いたのちに、教育者として日本の地方へ。既存の学校からはこぼれ落ちてしまう子どもたちのための学びの場は、教育そのものの未来を映し出している。


瀬戸昌宣が予想通りではない未来への一歩を踏み出したきっかけは、「最近つまらなそうだね」という同僚のなにげない一言だった。

1980年・東京生まれの瀬戸は、研究者だった父親の影響で、幼い頃から研究の道に進むことを志していた。高校・大学では海外留学を経験。2006年からニューヨークのコーネル大学に留学し、農業昆虫学の博士号を得て研究員となった。一見すると、定石通りのキャリアだ。本人も、大学で研究者として歩んでいく未来を想像していた。

しかし、PhD取得と同じ年に長男が生まれ、子育てをするなかで、価値観が変わっていったという。

「がむしゃらにやってきた研究という仕事の向こう側に何が見えるか、立ち止まって考えることができたんです。一本道である必要はないのではないかと」と、彼はそのときの心境を振り返る。

「親として、自分は子どもに何ができるんだろうと、その頃ずっと考えていたんですよね。そこで気づいたのは、それはこの子に何かを教えることではないということ。彼が彼のままでいられる環境をつくって、整えることだけが、ぼくにできることだと思ったんです」

親になったことに加え、大学や地域で関わった教育活動を通じて学びのおもしろさを知ったことで、瀬戸のなかで研究よりも教育への関心が高くなっていった。そんなときに偶然、高知県土佐町での教育人材の募集を見つけ、彼は研究者のキャリアを手放すことを決めたのだった。
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文=宮本裕人 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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