ビジネス

2021.01.28

誰もが設計者に、VUILDが掲げる「建築の民主化」


秋吉の活動をテクノロジーだけに注目しては本質を見誤るだろう。最も彼が重きを置くのは、「自らの手」で「自由に」つくる精神性にこそある。

ものづくりや暮らし方において、誰もがテクノロジーの恩恵に預かれるサービス形態、遠隔の協働スタイルが期せずして注目されたのがコロナ禍だった。EMARFが3.0にバージョンアップした2020年5月のタイミングで、既存の建築家や工務店といったメインの利用者に交じって、一般ユーザーが目立ち始めた。その目的の多くは、在宅ワーク用の家具づくり。必要性からテクノロジーが求められた動きとして注目に値する社会変化だ。

それと同時に「郊外移住」「二拠点居住」のような生活スタイルの変化もVUILDの追い風になった。「経営者層やクリエイティブクラス(知的生産階級)の間で新しい住まいや拠点をつくりたい人が増え、そうした『家づくり』の依頼を頂くことが多くなりました。地元の素材とデジタル技術を使って自分の理想の暮らしを実現する『まれびとの家』のような事例をパッケージング化した『Nesting』(仮称)という新サービスを立ち上げたところです」


2021年着工予定の『ソフトランディングハウス』は、傾斜地に建築する住宅。デジタルファブリケーションの領域が広がっていく。

VUILDの活動は、ともすると課題解決型、いわゆるイシュードリブンの企業とみなされがちだが、秋吉自身はどちらかといえば、新たな価値を提示するビジョンドリブンの企業だと認識している。「僕たちアーキテクトの本来の役割は、より良い社会像を具体的なテクノロジーとデザインで提示し、それを実践してみせることだと思うのです。これからの社会で、どういう暮らしができたら面白いだろうか。自分なりの仮説を立て、事業を通じて検証する流れを意識しています。これを繰り返していたら、いつか世界を変えられるかもしれない」

中央集権的に資源が配分される社会から、地域内で資源の循環までが完結する社会へ。VUILDが掲げる「建築の民主化」という言葉は、これまでの常識を揺さぶり、私たちの生き方も問いかける。


あきよし・こうき◎1988年、大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学ソーシャルファブリケーションラボでデジタルファブリケーションを専攻。2017年VUILD設立。

文=神吉弘邦 写真=平岩亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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