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若手建築家の登竜門である建築賞や、2020年のグッドデザイン賞で金賞を受賞するなど、まれびとの家が高い評価を得た理由の一つに、買い手のつかない地場の材料、とりわけ「大径木」(昔は家の大黒柱などに使われた高級材だが、輸送コストなどの課題から敬遠される)の利用法を示したことがある。半径10km圏内の物流で完結する建築は、CO2の排出も少なくて済む。循環型経済が浸透しつつあり規制の厳しいヨーロッパ市場でも、VUILDのアプローチには需要がありそうだ。


「まれびとの家」は、現地の素材生産者が木材をデジタル加工、既存のサプライチェーンを介さず建設。短期滞在型シェア別荘として運用、「観光以上移住未満」の家のあり方を提案する。

木製部品から組み立てる建築


2020年5月、VUILDは自社工場を横浜・本牧に移転。三菱重工業が工場内にスタートアップを招致した「Yokohama Hardtech Hub」の一角を占める。秋吉が「この規模の広さと潤沢な高さがほしかった」と語る理由は一目瞭然。幅6mもある大型の5軸CNC加工機が2台、広大な建屋内でせっせと稼働していたからだ。

次々に仕上がる木製部品に対し、オペレーションのスタッフは1人。基となる設計データは自社開発のクラウド設計サービス「EMARF(エマーフ)」で生成されたものだ。これは多数のCADソフトに対応するプラグイン(機能拡張ソフト)で、加工費や材料費の見積もりが自動算出できるだけでなく、実際の加工コードまで自動生成できるのが特徴。「例えば、すべて形状の違う600個の加工データもボタン一つで一気につくれます。人間がつくる場合、途中で図面をFAXなどでやり取りして、分業する人たちの間で多くの工程を経るから煩雑ですが、僕らは全てのプロセスをデジタルデータで一貫して行うことができるため、最小限の労力と時間でものづくりができます」


横浜・本牧にある工場の扉を開くと漂う木の香り。大型の5軸CNC加工機が、デジタルデータから木材をカットしていく。2次元だけでなく3次元加工までこなすのが特徴だ。仕上げは十分な技術を備えたスタッフが当たる。ビジョンを追求するには、最新のテクノロジーを取り入れるとともに、スキルの向上も必須と考える秋吉。一般に向けてShopBotやEMARFといった彼らの手がけるハードやソフトを扱える人材の教育を欠かさない。

CNC加工機がある工場ならどこへもデータが送れるので、好みの木材の産地に一番近い工場で加工し、送られてきた部品を組み立てて家具をつくる、といった利用ができる。あるいは、専門家をわざわざ呼ぶことなく、遠隔のコミュニケーションで建築の施工まで完結するのもメリットだ。

秋吉が構想する分散型社会とは、人々の分業を意味しない。むしろ、テクノロジーによって個人のスキルを高め、独力で、あるいは地域のコミュニティ内でものづくりが完結する未来を指す。「どこにいても、誰もが自分たちの理想の暮らしを、好きな地域の材料や資源を使い、自分の手で実現できる社会をつくる。それが僕らの提供したい『新しい価値』だととらえています」

プロジェクトごとにその周辺にいる工務店や職人たちを巻き込んで進めていくスタンスなので、地元の仕事のシェアを自分たちが奪うようなことは起きないだろうと考えている。

文=神吉弘邦 写真=平岩亨

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