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2021.01.28

誰もが設計者に、VUILDが掲げる「建築の民主化」

従来の経済指標では測れない新しい豊かさとは何か。資本主義や民主主義を問う声が増すなかで、人々が共感できる「新しい価値」が重要になってくる。1月25日発売のフォーブス ジャパン3月号では「新しい価値」の設計者たちをテーマに、建築家、映画監督、音楽プロデューサー、大学教員、教育やシビックテックのNPO代表、官僚など、さまざまな分野の25人をピックアップ。彼らの「新しい価値」観とそれを社会実装する取り組みを紹介。本誌掲載記事から一部お届けする。

素人でも家具や建築を手軽に設計して、まるで紙をプリンターで印刷するように出力できたら。そんな魔法のような社会の到来に向け、実践を通じて建築業界やアーキテクトの役割を問い続ける挑戦。


3年前に建築系スタートアップVUILD(ビルド)を設立した秋吉浩気には、学生時代から一つの疑問があった。「建築業界は思想や言葉はわりと先に立つのに、実態が伴わないことが多い。大御所の建築家たちが『これからの都市はこうなる』と言っても、結局は何も起こせなかったのはなぜか?」。

その答えを、彼は「描いた未来を自分自身で実現させる手段と実行力がないから」と結論づける。都市のような大枠の話でもそうだが、日本では生活レベルでも米国のような“メイカーズ・ムーブメント(消費者の立場に甘んじることなくDIYで生活用品や住宅をつくる運動)”は起きていない。「モノでも、家でも、街でも、自分たちが実現したいものを一人一人がつくれるようになればいい。いまの技術を使えば、これまで個人にできなかったことができるようになっています。インターネットが私たちの生活に与えたような変化を、物理世界でも起こしていきたいんです」

転勤族の家庭に生まれ、画びょうを打つにもためらわれる「ガチガチの賃貸住宅」で育った。なぜ、自分の部屋に段ボールの秘密基地をつくるような感覚で暮らせないんだろう……素朴な問題意識を失わないまま、今日まで進み続けてきた。建築設計を学んだ後、より深く研究したのはデジタルファブリケーション(デジタルデータによるものづくり技術)の可能性。そんな秋吉が扱うのは、デジタルとの相性を連想すれば意外な組み合わせに映る「木材」だ。

VUILDによる木造建築は、CNC(コンピュータ数値制御)加工機でプレカットした部材を、現地で組み立てる方式を取る。富山県南砺市に現代版の合掌造り工法で建てた住居「まれびとの家」の場合、まず1000カ所以上の接合部とジョイントからなる部品を、地域に導入したデジタル加工機で加工。その後、切り出された部材を現場に運び、およそ1日で骨組みを完成させた。
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文=神吉弘邦 写真=平岩亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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