こうした横浜市の取り組みは、日本型のスタートアップ・エコシステムの発展を目指すという、国の方針とも合致。内閣府が公募した「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」において横浜市は、2020年7月に「グローバル拠点都市」に選定された(東京都、横浜市、川崎市を中心とした「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」として選定)。横浜市は今後、国の後押しを受けながら、YOXO BOXをハブにしてスタートアップ支援を推進し、横浜ならではの人材や企業、投資を呼び込むエコシステムの構築を目指していく。
この流れの中で横浜市がスタートアップと組んで「うまいぞ!横浜。」プロジェクトを立ち上げたのは、むしろ自然なことであると言っていいのではないだろうか。
「街の活性化」を目指したフードデリバリー「NEW PORT」
スカイファームはデリバリープラットフォーム「NEW PORT」をベースにしたフードデリバリーを2016年1月に始めた。創業の地はみなとみらいエリアの中核、横浜ランドマークタワーの地下1Fにあるシェアオフィス「BUKATSUDO」だ。当初は生産者の支援、飲食店の支援を軸に事業を行っていたが、事業開始から半年ほど経った頃、代表である木村の心にある変化が起きる。
「ランドマークタワーを運営する三菱地所さんとお会いする機会をいただきました。ランドマークタワーには就業者が1万人以上もいると言われていて、エレベーターがどうしても混雑してしまい、従業員が食事をするのに困っていると。そこで、従来は街一帯を対象にしていたフードデリバリーを、ビル1棟に限定した形でやってみることにしました」
ランドマークタワーの就業者を対象にしたデリバリーサービス「ランドマークシッピング」の誕生だ。このサービスは現在でもNEW PORTのいちブランドとして続いている。
「『支援』はもちろんですが、この頃から、『街の活性化』といった文脈でフードデリバリーのビジネスを考え始めるようになりました。みなとみらいだけでも10万人以上の就業者がいますからね。その人たちのために、という気持ちです」
「NEW PORT」のユニフォームに身を包んだスタッフたち。向かって右から2番目が木村だ。
「コロナに苦しむ横浜のために何ができるだろうか」
時は流れて2020年3月。猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の影響で、横浜市でも多くの商業施設や飲食店が休業、時短営業に追い込まれていた。「横浜でデリバリーのプラットフォームを運営する企業として、横浜に対して何ができるだろうか」。木村は自らに問いを投げかけ、想いをA4コピー用紙1枚の企画書にぶつけた。
木村が企画書を手渡した相手、それが約2年前にピッチイベントで出会って以来頼りにしていた横浜市経済局の奥住だ。
「市としては、様々な経済対策を打ち出さないといけないという大きなテーマがありました。コロナの影響は、リーマン・ショックなどとは違って、飲食店や商業施設がダイレクトにダメージを受けてしまいます。このままコロナが続くと仮定した時に、飲食店が持続可能な営業を目指し、チャネルとしてのデリバリーやテイクアウトを持つというのは1つの選択肢として重要だと考えていたところでした。そんな時に、横浜のスタートアップであるスカイファームさんからあのようなご提案をいただけて、本当にうれしかったです」
企画書は木村のアイデアを並べただけの簡単なものだった。「詰めながら進めていこう」。それから1カ月弱。コロナ禍における緊急的な事業であることを踏まえ、横浜市としては異例のスピードでプロジェクトを進め、4月30日のスタートを迎えることができた。売り上げ、オーダー数、参加店舗、軒並み右肩上がりだという。