関内エリアにスタートアップを集め、スタートアップのエコシステムを
大企業等の集積が進んだみなとみらい。一方、関内エリアでは市の文化観光局がアーティストやクリエイターの集積を図っていた。都心に比べて賃料が低く抑えられるだけでなく、港や海を臨むロケーション、中華街をはじめとした飲食店の充実と、若い才能を惹き付けるのには十分な魅力だ。
「クリエイターとスタートアップは、クリエイティブなビジネスに取り組んでいるという点で実は、親和性が高いんです。そこで我々は関内を中心にスタートアップの集積を図ることに可能性を感じました」
近年、ビジネスシーンでは「オープンイノベーション」が1つのトレンドになっている。大企業等が製品やサービス創出を自社のプロセスだけで完結させるのではなく、外部組織の技術やノウハウを協働で取り込み、新たなサービスを創出する仕組みのことだ。そこで大企業等が注目しているのが、ユニークなアイデアと圧倒的なスピード感を有するスタートアップなのである。
「みなとみらいに、あれだけたくさんの大企業の本社や研究開発拠点がやってきてくれました。そこで関内エリア周辺にスタートアップを集積させれば、歩いて行ける範囲(みなとみらい駅から関内駅までは徒歩約20分)のコンパクトなエリアの中に大企業とスタートアップのエコシステムができるのではないだろうか。そう考えました」
「YOXO(よくぞ)」をスローガンに、「イノベーション都市・横浜」を宣言
こうした構想のもと、横浜市は2016年に「LIP.横浜」、2017年に「I▫TOP横浜」という2つのプラットフォームを続けて立ち上げた。前者はライフサイエンス分野、後者はIoT分野に特化したオープンイノベーション・プラットフォームである。ともにスタートアップが単身で乗り込むには障壁が高い事業分野であり、横浜市が支援する形でさまざまなビジネスモデルを生み出すことに成功した。
そして2019年1月7日、関内。250人以上の起業家、エンジニア、大学関係者たちが集まった場で林市長は声高らかに「イノベーション都市・横浜」を宣言した。
開港から160年、横浜は異文化との交流からさまざまなイノベーションを生み出してきた。これからは新たなクロスオーバーを生み出すイノベーション都市へ進化していく。そうした力強いメッセージだ。
横浜市に拠点を置くデザインストラテジストの太刀川英輔が発案した「YOXO(よくぞ)」がそのスローガンになった。横浜、クロスオーバー、そして、「いつか『よくぞ!』と讃えられる未来の挑戦者たちのために」という想いが込められている。
YOXOの名のもと、スタートアップ支援の拠点として2019年10月31日に生まれたのが「YOXO BOX」だ。「横浜に新しい交流を生み出すためのサンドボックス(砂場=実験場)」になることを目指して作られた場である。
YOXO BOX。JR、横浜市営地下鉄「関内」駅から徒歩3分の立地にある。
1Fはイベントスペース。この奥と3Fには三菱地所が運営するシェアオフィス「YOXO BOX OFFICE」もある。
スタートアップ支援のため、YOXO BOXでは5つのメニューを用意している。
1. YOXOイノベーションスクール(起業志望者を対象にしたビジネス講座)
2. YOXO Accelerator Program(スタートアップを対象に短期集中型で支援するアクセラレーター・プログラム)
3. 横浜ベンチャーピッチ(スタートアップがベンチャーキャピタルや企業に向けて自らのビジネスモデルをプレゼンテーションするイベント)
4. YOXO BOXスタートアップ相談窓口
5. 交流・ビジネスイベント
オープンから1年が経ち、スタートアップなどの成長支援対象件数は目標としていた「20件以上」を大きく上回る79件。人材交流・ビジネスイベントの延べ参加者数も、目標の1000名を超える1448名を達成。YOXO BOXは、その役割を十分に果たしていると言えるだろう。